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・3
その少女は殊勝で、一生懸命に日々の仕事をこなしておりました。最初こそぎこちない様子ではありましたが、それも徐々になくなり、良く働き良く笑う少女の事を気に入り、かわいがる使用人も少なくありませんでした。
――けれど、それも最初のうちだけでした。
「おまえは、本当に良く働いてくれるね。私も皆も、とても助かっているよ。ありがとう」
旦那様がその少女の事を気に入っている。――そんな噂が使用人の間で飛び交うようになり、屋敷の空気は、少しずつ少しずつ悪くなっていきました。
「ねえ、聞いた? この前旦那様がお出かけなさった時、あの娘にだけお土産を買ってきたらしいわ」
「わたしはこの前、旦那様とあの娘が楽しそうにお庭を散歩しているのを見たわ」
「なあにそれ。まだここへ来て間もないくせに、でしゃばりすぎだわ」
「許せない」
少女は毎日、本当に頑張っておりました。けれども他の使用人たちは、面白くありません。彼女たちが少女にきつく当たるようになるまで、さほど時間はかかりませんでした。
「ちょっと。ここの掃除、ちゃんとやったの? ゴミが落ちていたわよ」
「あなた、次はこれをやっておいて。その次はこれね。それが終わったらあっちもお願い」
「……ああもう! ほら、あっち! 焦げたにおいがするわ! あなたのせいで、お料理が台無しよ!」
「あなたが来たせいで、仕事が減るどころか、ますます増えてしまったわ!」
少女はそれに落ち込み、次第に元気がなくなっていきました。
失敗が多くなり、それをこれ見よがしに責められ、また失敗を繰り返す。その様子は、とうとう旦那様の目にも届くようになりました。
これで、旦那様に叱られるに違いない――皆がそう思い、誰もが腹の中で笑っておりました。
けれど、実際にはそうはなりませんでした。
旦那様は――少女の頭をゆっくりと撫で、ただ優しく、優しく窘めたのでした。
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