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 その少女は殊勝(しゅしょう)で、一生懸命に日々の仕事をこなしておりました。最初こそぎこちない様子ではありましたが、それも徐々になくなり、良く働き良く笑う少女の事を気に入り、かわいがる使用人も少なくありませんでした。 ――けれど、それも最初のうちだけでした。 「おまえは、本当に良く働いてくれるね。私も皆も、とても助かっているよ。ありがとう」  旦那様がその少女の事を気に入っている。――そんな噂が使用人の間で飛び交うようになり、屋敷の空気は、少しずつ少しずつ悪くなっていきました。 「ねえ、聞いた? この前旦那様がお出かけなさった時、あの娘にだけお土産を買ってきたらしいわ」 「わたしはこの前、旦那様とあの娘が楽しそうにお庭を散歩しているのを見たわ」 「なあにそれ。まだここへ来て間もないくせに、でしゃばりすぎだわ」 「許せない」  少女は毎日、本当に頑張っておりました。けれども他の使用人たちは、面白くありません。彼女たちが少女にきつく当たるようになるまで、さほど時間はかかりませんでした。 「ちょっと。ここの掃除、ちゃんとやったの? ゴミが落ちていたわよ」 「あなた、次はこれをやっておいて。その次はこれね。それが終わったらあっちもお願い」 「……ああもう! ほら、あっち! ()げたにおいがするわ! あなたのせいで、お料理が台無しよ!」 「あなたが来たせいで、仕事が減るどころか、ますます増えてしまったわ!」  少女はそれに落ち込み、次第に元気がなくなっていきました。  失敗が多くなり、それをこれ見よがしに責められ、また失敗を繰り返す。その様子は、とうとう旦那様の目にも届くようになりました。  これで、旦那様に叱られるに違いない――皆がそう思い、誰もが腹の中で笑っておりました。  けれど、実際にはそうはなりませんでした。  旦那様は――少女の頭をゆっくりと撫で、ただ優しく、優しく(たしな)めたのでした。
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