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 それからまたいくらかの時が経ち、それはある秋の日の事でした。  その日、旦那様は外出をしていて、屋敷にいるのは使用人たちだけでした。あれ以来、少女が旦那様と楽しそうに言葉を交わしている姿が何度か目撃され、その頃にはもう、少女の味方となる者は1人もいませんでした。  旦那様がいない日は、少女の事をいじめる日。  少女にとっては、どうしようもなくつらい日でした。 「……あの……、皆さん。お食事の準備が、出来ました……」  小さな声で、少女がいいます。しかしその少女の声に、返事をする者はいません。  代わりに辺りに響いたのは、何かが割れる音。誰かが料理の乗ったお皿を床に落としたのです。 「……あら、落としちゃった」 「旦那様、きっと怒るに違いないわ」 「ねえ?」  少女は、涙を目にため、びくりと肩を震わせます。 ――その所作が。  いえ、少女が。  使用人たちはもう、その少女が、少女の存在そのものが、目障りで仕方ありませんでした。  使用人の中のひとりが、ゆっくりと少女に近づきます。  同時に鳴る、乾いた音。頬を(はた)かれた少女は、その場に倒れ込みます。  彼女はその様子を満足げに眺め、少女の髪を引っ張り、また頬を叩きます。  少女の涙が床にこぼれ落ちた時、使用人の誰かが、ぽつりと言葉を漏らしました。 「……ねえ、みんな。この娘、どうしてこの屋敷にいるのかしら」  その質問に答えられる者は、もちろんいません。  ぼろぼろと涙を流す少女を見て、また他の誰かがいいました。 「わたしも、そう思うわ。この娘が来る前は、このお屋敷はもっと素敵な場所だったわ」  その発言に、誰もが同意します。  やがて皆、思っている事を口々にいい始めました。 「その通りね。前は、もっと平和だった」 「この前、わたし旦那様に叱られたの。この娘の方がたくさん失敗しているのに、おかしくないかしら?」 「旦那様、最近お仕事があまりうまくいってないみたい」 「なら、八つ当たり? 旦那様は、そんな事をするような方ではなかったわ」 「旦那様は、この娘が来てから変わってしまったわ」 「旦那様のお仕事がうまくいかないのも、この娘にうつつを抜かしているからじゃなくって?」 「ねえ。誰か教えて? この娘は、どうしてこの屋敷にいるの?」
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