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 彼女たちは、まるで少女がこの世の諸悪の根源であるかのような言い方で、捲し立てました。  少女は――ただ、涙を流しながら――やがて、震える唇で、息を吐き出しました。 「わたしは……どうすれば、良いのですか……?」  この時少女は、悲しい事に、彼女たちの言葉をまっすぐに受け止めてしまっていました。  すべて、悪いのは自分なのだと。  自分のせいで、この屋敷が壊れてしまったのだと。  毎日のように彼女たちに責められ、(なじ)られ。少女はもう、何が正しいとか、何が正しくないとか、そういう事を正常に考える事すら、出来なくなってしまっていたのです。 「……なら、消えてよ」  近くにいたひとりが、テーブルの上に置いてあったスプーンを手に取ります。 「どうするつもり?」  周囲から飛んできた、やや警戒した声に、彼女は「平気よ」といって、鼻先を上に向けました。 「旦那様は、まだまだ帰ってこない。なら、もう、その間に、この娘に消えてもらいましょうよ」 「消えて……?」 「そうよ。この娘が、突然屋敷から飛び出していった。そのまま帰ってこない。そういう事にしてしまえば良いのよ」 ――確かに。  それならば。 「…………」  皆が固唾を呑んで見守る中、彼女は、少女の首に手をかけました。少女は目を見開きます。 「……そう。その目」彼女は唇を噛みながらいいました。 「前から気に入らなかったの。わたしたちの事、見下してるつもり? そのくせ、旦那様には色目を使っているんでしょ?」 「そんなの……そんな事、ないです……!」 「ああ、うるさい娘ね。大嫌い」  彼女は、握ったスプーンの先を、ゆっくりと少女の目に近づけます。  少女は、ひっと上ずった声を上げ、顔を小刻みに振りました。  しかし彼女は、ただ笑って―― 「……ねえ。もう2度と、何も見ないでよ(、、、、、、、)。 わたしたちの事も。旦那様の事もね」 ――そう。それが。  その、彼女の悪意に満ちた顔が。  少女の見た、最後の映像(けしき)でした。
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