終わりの始まり

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終わりの始まり

  公園に着くと、夕食向けの屋台がちらほらと出ていた。 「よぅ兄ちゃんここいらでは見ない顔だな」  辺りをキョロキョロしていると、白いバンダナのおじさんが屋台から顔を出した。 「はい、今日来たばっかりで」 「そうかそうか、ここは治安良いからなぁ、ゆっくりしてけよ!」  笑いながら肉串を回す事でその匂いがこちらへ香ってきた。 「美味しそうですね、2つ下さい」 「まいど! 200ellだ」  200ellって、銀貨1枚で足りるか? 「まいど、安全とは言ったが、夜は一応気をつけて行きな」  渡された肉串と銅貨を8枚受け取り、紙袋へ仕舞う。  銀貨1枚1000ell、銅貨1枚100ellか。 「ありがとうございます」 「おう、また来な!」  さて、次は何処へ行こうか、やっぱり、武器とか防具も見てみたいし、ギルドも行きたいな。  カランコロンと鳴る扉を開き中へ入ると、日本ではお目に掛かれないファンタジーな武器が所狭しと置かれており眼を輝かす。 「らっしゃい」  カウンターから強面の店主が顔を出す。  怖そうな人だな、店主から眼をそらし何を買おうか物色していると、店主からナイフが投げ渡された。 「1000ellだ」 「え、はい?」 「それで十分だ、技術を身に付けたらまたこい」 「技術ですか?」  コクりとうなずく店主。  無理矢理売り付けられた物なのに、まるで私の為に作られたかの様に手にフィットした。  これなら買っても良いかな、護身にもなるし。  共に貰ったナイフ入れを腰に巻いてそこにナイフを刺し、銀貨を1枚カウンターに置いて店から出た。 「強くなったらまた来ますね!」  さて次は何処へ向かおうか。 「新しく孤児や浮浪者は見つかった?」  屋敷から出掛けたエンはギルドマスターに会う為、冒険者ギルドへと訪ねていた。 「お前さんが統治して以来全く居らんよ、冒険者も真面目で張り合いが無いわい」  がっかりした口調とは裏腹に穏やかに笑う。 「そういえば、私の家にまた1人増えたから」 「そういや今日は珍しく6人も新参者が来てたな、どんな奴だ?」 「6人? 私が会ったのは草原で1人だけね、色々と知らない事が多いけど、人としては問題無さそうだから」  資料を捲っていた手が止まった。 「グロア草原か?」 「そうだけど……何か有ったの?」 「いや、気にするな」 「そう、何か有ったら言ってね、これでもこの街の領主なんだから」 「あぁ、頼りにさせて貰うよ」  閉まった扉から金色の帯の付いた手紙に眼を移す。  グロア草原に浮浪者か、まさかあいつの予言が当たったか?  調べる価値はあるな、草原の奴は……エンの所に居るから良いとして、一応他の5人の方に行ってみるか。  一抹の不安を抱えギルドマスターは相棒の黒色の大剣を背中に装備した。  佐藤の目線の先には獣人や、ドワーフ、エルフが生活していた。  ゲーム何かとも違って買い物をしてたり、あそこではエルフが二人で世間話してるし……あっ黒ローブの魔法使いみたいなのは皆で家に入ってった。 シェアハウスかな? ……と思ってたよりリアルだしほのぼのした空間だ。 「暗くなってきたな、そろそろ帰るか」 「こんばんは……?」  体中に毛が生えていて、獣耳が生えており、翼の付いた門番、動物で例えるなら蝙蝠を二足歩行にした姿が一番近いだろうか。  もう1人は、兜を被って手を後ろに組んでいてどのような姿か分からない。 「一応人だな、まぁ見慣れないかも知れんが別に客や使用人を襲ったりしないさ」  門番の1人は慣れてるのか、ぶっきらぼうに頬をかく。 「横のこいつは無口だが、仕事は出来るから安心してくれ」 「はぁ、よろしくお願いします」 「そうそう、エン様ならまだ帰って無いから部屋で休んでてくれ、とトロンさんからだ」 「分かりました、これ良かったら」 「おっサンキュな」  エンが帰ってないなら部屋で休むか、滅亡を防ぐなんて一朝一夕じゃ出来ないし、明日辺りにトロンさんかエンに歴史でも聞かせて貰うか。   「すっかり暗くなっちゃった」  公園のベンチで休憩するエン。 「エンの嬢ちゃん、お疲れだね食うかい?」  エンが見上げると、白いバンダナをした屋台の店主が居た。 「ありがとう」  串にかじりつくと焼きたてなのか温かく、夜風に冷えた体を暖めた。 「なぁ嬢ちゃん、今って夜だよな?」 「そうに決まってるじゃない、どうしてそんな事聞くの?」 「いや、空がよ……」  エンが空を見上げると、空が紅色に染まり闇を切り裂く様に光っていた。   「ここが新参者の家か」  草原を調べていて遅くなってしまったが、まだ明かりは付いているな。  ガンガンとノックをするも返事は無い。 「おい、居るかー?」  声をかけた瞬間とてつもない悪寒が襲う。  これは、不味い。  とっさに、ギルドマスターは背中に担いでいた大剣を抜き、扉を切り裂く。  中に入ると、5人の黒ローブが魔方陣を囲んで詠唱をしていた。  間に合うか!?  剣を思い切り投げ2人切り裂く。 「残念だったな剣士よ!  いでよ希亡の戦士カグツチ!」  その呼び掛けに呼応するように魔方陣は一段と強く光った。 「ん? もう朝か?」  寝室で寝ていた佐藤は、窓からの明かりで眼を覚ました。  え?   窓を開けた先では、街が暗闇の中赤黒く燃え広がっていた。
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