油断

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油断

 主電源のあるビルは世界を脅かす危険が有るにしては、余りにも普通だった。  中へ入るとエントランス横の食事処で軽い宴会が開かれていた。 「あれがその集まり?」  それは集まりと言うには日常の一コマの様な普通の宴会にしか見えない。 「民間には完全に秘匿されてるからの、カモフラージュじゃここに居るのは全員研究者とその家族じゃよ」 「こんな所でして大丈夫なの?」 「ここの従業員として名義されてるし、研究者とは家族にも明かさない事が条件じゃ、まぁそれでもこういう宴会に家族を連れてくる者は居るからここでの会話も秘密は話せないがの」 「こんなに和気あいあいとしてるのに、滅亡する直前なんて信じられないな」 「そうじゃな、それに地下には害意や悪意の有るものは入れない仕組みになっとるからテロリスト何かが入ってくる心配も無用じゃ」  ここまでの技術力が有ってなお滅亡する可能性があるのか。 「取り敢えず主電源へ行こうよ」 「そうじゃな」  fastが扉を開けるとそこは物置となっていた。 「ここをこうじゃ!」  棚に置いてあった段ボールへと手を突っ込むと、何かがガチリと鳴り棚の前の床がズズズと横に動く、中を覗くと地下への長い長い階段が続いていた。  薄暗い階段を下りていくとガラスで出来た扉があり、その奥には白衣の職員が数名パソコンと向き合ったり、コーヒー片手に談笑していた。 「ってあの野郎、また外部の人間連れて来てやがる」  私を連れて来てる奴が何を言ってるって話なのだが、中には確かに子供と手を繋いでる職員が居た。  fastは扉へポッケから取り出したカードを当て開口一番に叫んだ。 「ここに第三者を入れるなっていつもいつも言うとるじゃろが!」 「ラーク様!? 何故ここへそれよりその男は?」 「おい、そこのガキ連れてるの、お前の処分は追って連絡する、他の者も覚悟するのじゃぞ」  ずいぶんとご立腹らしい、私へ対する態度との違いが凄まじい。 「うちの後ろのはソルトじゃ、うちの主電源が停止するらしいんでの、止めに来たわけじゃ」 「そんな、あれが止まるわけ、そいつこそ危険なんじゃないですか!?」  子供を連れていた男がコーヒー片手に私を指指す。その場に居る人々の注目が私に集まり、少し体が強ばる。 「ソルトが危険な可能性? 考えても無駄じゃよ、そもそもこやつは破壊も解除もやり方は知らん」 「それで、主電源は大丈夫なんですか?」 「扉も開いて無いし、ここの起動盤にも異常は無い、その男の言うことは信じられんし、可能性としては限りなく低いだろう」  パソコンと見つめあっていた男が答えた。 「それこそ、中へ入って直接主電源を落とさない限り……」  その時、ブォンという音と共に目の前の扉、主電源へと続く扉が開いた。 「!?」 「ガキだ、あのガキが開けやがったのじゃ!」  扉の奥にはカードを持った子供が主電源へと歩いていた。 「グレイル!」 「早く開けろ!」  fastからカードを取って扉を開け、操作盤へと手を伸ばす子供を捕まえた。 「捕まえた!」  子供を捕まえたと同時に部屋の電気が暗転した。 「これは……?」  部屋に一瞬の静寂が訪れると、今度は赤色の警報灯とけたたましい音声が流れ出す。 『主電源の電源がオフになりました、主電源がオフになりましたーーーー』  それは私を嘲笑う様に無慈悲に鳴り続けた。
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