「杞憂…」

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「今年は雪が降らなくてね。良くても雨だ。参るよ」 村役場の“H”は、そう言って、顔をしかめた。彼の地元は雪が多く降る… だが、温暖化の影響か?ここ数年、積雪量が減っている。 「雪祭とか、観光面は問題じゃないんだ」 村に伝わる古い風習が関係していると話す。 「村には山があってね。入口は深い森だ。夏はキャンプに登山、秋は紅葉、登山、冬は登山に狩猟!ウチの財源の一つにもなってる。だけどな」 問題があると言う。 「バカげた話だと、多分思う…だから、酒の席の与太話だ。毎年、この時期、森林組合、消防団、猟友会に、ある“追加業務”が加わる。 山の監視だ。昔は警察と猟師だけだったが、人口減で、担い手がいなくてね。 未だに人員不足… 何があるって? よくはわからない。昔、ここは蝦夷の開拓地として、旧幕臣の落人とか囚人を 強制開墾事業に投入して切り開いた土地だ。皆、飢えと寒さで死んだ。 その恨みが形になって現れていると言う人もいる。村に住んでる古い猟師とかは“ダタラ”と言う山の妖怪だとも話していたけど、結局の所は説明に困る存在って事だけがわかってる…とにかく出てくるんだ」 Hは“それ”を見た。 「もう死んでたけどな。大学の休暇で帰省した夜だ。大雪の中、車で家目指してたら、森の近くで、猟師達と会った。奴等の足元に転がってたよ。全身真っ白で、背は俺より少し大きい。顔は獣とも人とも言える。 気味の悪い生き物だ。とにかくこの時期、それが出てくる。数は多くても4、今の所…人を襲うって訳でもない。ただ、フラフラ歩いてるだけだ。だけど、そんな得体のしれないモンが歩くのは困る。観光とか名物、学者を呼ぶって話も出たけど… 人ってさ、現実とあまりにかけ離れた、人智?を越えたモンを見ると、シャットアウト、排除が基本なんだよ。自分達の常識を守るためにさ。村の利益には到底ならない。 だから、駆除する。 方法は簡単、銃でも、スコップでも、頭を強く打てば、死ぬ。だけど、 後の始末が厄介だ」 処理できないと言う。 「焼いても駄目。埋めても、いつの間にか森の入口に戻ってる。死んでるのにな。皆で色々試した。だけど、最終的な解決策は…」 雪に埋める事らしい。 「別に俺達がやらなくてもいい。雪が積もって、アレを覆い、雪解けには消えてる。恒例だ。とにかく、雪だ。自然の雪、空から降ってくる雪の積雪だけが、この村を守ってるんだ」 だが、今年は降らない可能性がある。 「アレが消えないで、外の奴等の目に触れた時、村には誰も寄り付かなくなる。いや、それだけじゃないかもな。一体どうなる事やら…」 Hの杞憂は、まもなく現実のモノとなる…(終)
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