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少しでも誰かの願いを届けられたらと思って始めたことだった。暗闇の中で一人打ち震えながら、凍える心臓の前で手を合わせ必死で紡ぎ出した言の葉を、せめて神様の耳元まで運ぶことができたら。全ては無理でも、少しでもその数を増やすことができたらと。
しげしげと手のひらを見つめる。傷だらけだった。見上げると今日も色のない様々な願いたちが降ってくる。私はため息をついて寝転がった。このまま願い事に埋もれて窒息してしまおうか。何て素敵で切ない墓場じゃないか。
視界がぼんやりしてうとうとしてきた頃、小さな赤い点が見えた。棘が刺さってできた血の宝石のような点は少しずつ形を現し、ふわふわとさまようように、でも私を目指して落ちて来た。握りこぶし大の願い事は鮮やかな赤い色で、規則正しくコト、コトと音を立てている。じわりと温かく、ずっと胸に抱いていたい気がした。
こんな願い事は初めて見る。胸がギュっとする。さあっと表面に手を滑らせると、光が生まれ、目の前でほどけていく。願い事はただ一言歌った。
「君に、会いたい」
もう何十年と会っていないが、忘れることのできない声が聞こえた。栗毛の髪をなびかせて、穏やかに笑う彼の声が。
最近神様の仕事が少なくなったらしいという噂がある。願い事が減ったのだそうだ。神様は「人々が幸せだから、願うこともなくなったのだろう」とにやにやしているらしい。さあどうだろう、怠け者と評判の方だから、確認にすら行っていないのかもしれない。
「ハナちゃんと両想いになれますよーに!」
「今度こそ試験に合格しますように。あいつを見返してやる!」
「どうかお願いします。この子の命を助けてください。どうかどうか……」
今日も色のない願い事が、この世でもあの世でもない場所で、誰かに顧みられることもなく、静かに降り積もっていく。
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