願い事

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 願い事はどれもぼんやりとしていて、色のない色をしている。自分勝手な思いも悲痛に満ちた願いも、神様に伝えるのがためらわれるような邪な望みでさえ、たいして違いがない。見分けるのは形だ。音もなく落ちて来る願いをそっと拾い上げ、表面を壊れないようにひと撫でする。その時生じるわずかな光の軌跡を追い、丸やら四角やら似た形のものばかりを置いた一角へ分別していく。下界の一日の終わりに合わせて、それらをきらめく糸で織りだした風にのせ、神様の元へと飛翔させる。 「今日は棘のある願いが多かった」  血の一筋が浮いた指を見てひとりごち、新しい今日の新鮮な願いを拾い上げる。私の一日の始まりだ。  友人が訪ねてきた。お互い健康無事に過ごしていることを喜び合う。手紙のやり取りはよくしていたので懐かしい感じはしないが、会うのは久々だった。髪が伸びたなと思う。彼の温和な笑みを艶やかな栗毛が彩る。 「昇神試験は受けないの?」 「無理だろうなあ。僕のところの神様は怠け者だから、誰かが配達人をしないと」 「別に神様にそれを頼まれたわけでもないでしょう? それに、君はもう長いこと続けているのだから、誰かにかわってもらえば良いじゃないか!」  友人は私の神様の世界を詳しくは知らない。力のある神様だと思うが、なにさまぐうたらなのだ。願い事もきちんと自分のもとに届かなければ働こうとはしない。見るに見かねて自分が始めたことだが、今では暗黙の了解で私の担当になったようだ。出世にも何にもつながらないので、同僚もここには下りてこない。 「こんな何もないところに来るのは君ぐらいだよ」 笑って言うと、彼も私に倣った。風に浮かべることができそうな儚い笑いだった。沈黙が落ちると彼は帰るそぶりを見せた。 「ここにはしばらく来ないよ」  気の優しい彼がはっきり言ったので驚いた。こんな忘れられたような場所に来いとは決して言えない。理解はしているが、思わずすがるように聞いた。 「何か不都合があるのかい?」 「近々昇神試験を受ける」  神に仕える者としてあるべきではないのだろうが、一瞬動揺を隠すことができなかった。彼は顔を伏せた私を抱きしめたが、動き出そうとしない私を感じたのか、やがて手を緩め、ゆっくりと体を離し、黙って立ち去った。
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