アワユキソウの降る頃

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 ふとセナの愛犬のシロのことを思い出した。シロは一年前に、白い種を間違えて食べてしまったんだ。その種は見事に発芽して、口から大きな花が咲き乱れた。人間での報告例はまだない。ただ、目撃例がないだけかもしれない。  一年に一度、この時期になると、いっせいに空高く、白い種を飛ばす植物がある。その植物は、もともとこの地に自生していたものなのか、それとも我々がこの地に移住したタイミングで、いっしょについてきてしまったものなのか、詳細はわからない。植物学者のアラシヤマという者が一度この土地に訪れ、この植物のサンプルを採取したことがあったが、著名な植物学者をもってしても、こんな植物は初めて見たと驚いていた。そのときにかろうじて判明したことと言えば、この植物は他の生物の体内に入り込み、養分を吸って発芽する寄生植物だということ。この植物は約一年間宿主の中に潜み、また同じ時期に発芽の後、宿主に麻酔をかけ、鼻や口、耳などの穴からツルを伸ばして地表に出ていき、花を咲かせる。花は数時間で弾けて、白い綿のついた種をいっせいに飛ばすのだ。
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