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 新幹線の乗り換えの駅で、分厚いコートとブーツ、そしてマスクを買った。自分の物を買うのは何年振りだろう。  冷たい風と共にホームに滑り込んできた新幹線に乗り込む。時期的に旅行に出る人も少ないのか、車内は乗客もまばらだった。スーツ姿のサラリーマンが、慣れた様子で私を追い越し席に座った。  私もそれに倣って、窓際の席に座る。すうっと新幹線が発車し、景色が流れ出す。ホームはみるみるうちに車窓から消え、街並みが眼前に広がった。  そのうちにトンネルが多くなり、私は窓から目を離した。マスクで半分隠れているとはいえ、暗い窓に映る自分の顔など見たくはない。  ふっと眠気に襲われ、目を閉じた。安心して眠るのはいつぶりだろう。あの家では、夜中でも突然殴られて起こされることがあったから。  電車の揺れに身を任せ、私は穏やかな眠りへと落ちていった。
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