34.恋愛の苦労

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   帰り道、昌の歩き方が変だから彩はすぐに気づいた。 「ね、今日も倉本くんとなにかあったの?」 「彩は気にしなくっていいんだ」 「だって!」 「大丈夫だから。多分だけど……もう終わるような気がする」 「終わるって」 「彩のことで絡んでくること」 「昌もやり返したってこと?」 「俺はそんなことしないよ。出来ないんだ、ケンカ弱いし。……そういうのだらしないって思う?」 「ううん、昌に乱暴なこと似合わないし、して欲しくない」 「なら良かった。弱い男ってさ、女の子嫌がるだろ?」 「昌は弱くなんか無いよ」  昌は何となく嬉しくなった。彩は分かってくれていると。  彩の家が見えてきた。 「今日はウチには来ないの?」 「ごめん、まだ顔が」  まだうっすらと跡が残っている。彩の親には見せたくない。 「私が昌の家に行ってもいい?」 「だめだろ、それ」 「待ってて、聞いてくる!」  彩は家の中に駆け込んでいった。もしそれが許されたらどんなに嬉しいだろう。  しばらくして彩は着替えて出てきた。 「いいって! いくつか約束事してきたけどそれ守ればいいって言ってくれた」 「約束事?」 「部屋のドアを閉めない……ごめんね」 「それ、彩の家でもそうしてるし」 「6時半には帰ること」  今4時半だ。宿題と予習くらいは出来るかもしれない。 「後は成績を落とさないこと」 「じゃ、頑張んなくちゃだね」 「うん!」  図書館や彩の家で勉強すれば7時頃まで一緒にいられる。だからこの約束は順当と言っていいだろう。 「汐さん、いるの?」 「いるよ」 「いいのかな、お邪魔しても」 「汐も勉強してるから大丈夫」 「みんな真面目だよね」  彩からしてみればすごく不思議な家だ。男三人なのにきちんと暮らしている。 「お父さん帰って来るの、何時ごろ?」 「今日のシフトは5時までだから6時前には帰って来る」 「わ……ご挨拶しなくっちゃ」  途端に綾に緊張が走る。外の買い物で出会うのとはわけが違う。 「大丈夫だよ、俺が彩と付き合ってるの知ってるから」  それでも彩にはどきどきだ。 「お邪魔します」  ちょっと声が小さくなる。 「ただいま!」 「お帰り……あれ? 吉住さん?」 「今日はね、俺んとこで一緒に勉強」 「許してもらえたんだ! 良かったな、昌」 「うん! 着替えて来るからここで待っててくれる?」  彩は初めての家でドギマギしている。 「あの、早くね」 「ダッシュで着替える」  昌は階段を駆け上がって行った。 「えっと、吉住さんは」 「彩でいいです」 「じゃ、彩ちゃん。彩ちゃんは何飲む? アイスコーヒーとかアイスティーとかオレンジジュースとか……あ、座って」 「オレンジジュースでいいです。ありがとうございます」  汐はにこっと笑って台所に行った。ソファに座った彩はきょろきょろと中を見回す。男性の家の中はこざっぱりしていてちょっと物寂しい気がする。 「はい、どうぞ」 「ありがとうございます」 「そんなに固くならないで。これからも時々来れそう?」 「はい」 「そっか。昌が喜ぶよ」  実際にこんな風に汐と喋ったことが無い。昌が駆け下りてきてやっとほっとした。 「あ、ジュースありがと! 彩、部屋に行こう」 「うん」  汐が引き留める。 「二人で勉強するならここの方がいいんじゃないか? 椅子だって一つしかないだろ?」 「え、いいの?」 「俺は自分の部屋で勉強するから。ここの方が広々としてていいと思うよ」  昌は彩と顔を見合わせた。 「そうする? ここでもいい?」 「私はどこでも」  確かに昌の部屋は机も椅子も一つしかない。 「じゃ、そうしよう」  ソファじゃテーブルが低くて勉強しづらい。汐は昌に手伝わせてソファテーブルを端に寄せると、キッチンテーブルと椅子を持ってきてくれた。 「今度からこうするといいよ」  彩は嬉しそうに笑顔を見せた。  
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