35.日常へ

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   真っ赤になって受け取らない汐の代わりに昌がその花束を受け取った。 「花瓶あったよね!? リビングに飾っとく!」  一階の騒ぎに何ごとかと下りてきた大樹もダンテを見て驚いた。 「ダンテ! 日本に戻ってたのか?」 「正確には今朝着いたばっかりだ。真っ直ぐここに来たんだよ、Ushioに会いたくて」  汐はやっと口を開いた。 「すっかり変わったね、見違えたよ」 「そうか? 兄貴についてあちこちの会社に出回るからちっとは大人らしくなったかもしれない」  にこっと笑うダンテは、年相応、汐の年上に見えた。 「中に入っていいかな」 「あ、どうぞ」  汐はついそんな口調になって、どぎまぎしてしまった。    ダンテはコートを脱ぐとぞんざいにソファの背もたれに投げ出した。その価値を知っている大樹が慌ててハンガーを用意する。 「気にしなくていいよ、Hiroki」 「そうはいかないよ! ダンテ、コーヒーでいいかい?」 「ありがとう。いつも悪いね」  ダンテの変わり様についていけずに汐は黙りこみがちだ。咳払いをする。 「それで……いつ頃まで日本にいるんだ?」 「年明けまでフィオレの所にいる。Ushioは相変わらず参考書が恋人かい?」 (そうだ、この機会に外に出てほしい!)  大樹は汐に勧めた。 「汐くん、ダンテと出かけておいでよ。明日は模擬試験も無いだろう? ずっと家に閉じこもっていちゃだめだ」  その言葉でダンテはピンときた。生真面目な汐は本当に相変わらずの日常を過ごしているのだと。家と図書館の往復だ。 「Ushio、明日は俺と出かけよう! 調べてきたんだ、明日開いている日本刀展示会があるよ」  マイナーな趣味だが、汐は日本刀を見るのが好きだ。ちょっと気持ちが揺らぐ。 「でも勉強が」 「なに言ってんだよ! そこ、明日までなんだぞ。最近滅多に行ってないんだろ? 展示会」 「そうだけど」 「じゃ、決まり! 明日の10時に迎えに来るよ」 (たまには……いいか。久しぶりだし)  さすがダンテはツボを心得ている。汐は出かける気になった。クリスマスのデートだとは気づいていない。 「それで、休暇中の予定は?」  大樹が先を聞く。 「全部休みってわけには行かないんだ。Ushio、実は報告がある」 「報告?」 「あのな、ウチの会社、日本支社が出来るんだ。俺、そこの副支社長になるんだよ」  
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