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⑪
「どうなっちゃったの?」シンヤは目を丸めて訊く。
「信号を幾つも無視して暴走したその先で、飛び出してきた子どもを避けようとして激突さね……電柱にのう」
「うわあ……」
「まったく、愚かなことをしたもんじゃ」
「それで、頭の手術をしたってこと?」
「そう……意識が戻ったのが約一年後。助かったのは奇跡だと父は言っていたよ。儂の身体の6割は人工物に挿げ替えられていた。そしてどこよりも、脳の損傷が酷かったようでね」
シンヤは、ヒカルの頭部に回路の模様が浮き出ていたことや、動作にぎしぎしとした音が伴うことに合点がいった。ざっくりと言うなら、この人は半分ロボットだということだ。
「でも手術は成功したってことだよね? 良かったじゃない」
「ああ、じゃがな、一刻を争う局面で父の行った手術は常軌を逸するものじゃった――」
「?」
「駄目になった儂の脳組織を補うために、父は手近にあったオーロラの脳を使うことにしたのじゃ」
「えええっ!!」
「儂は後から知ったのじゃが、人間の脳と猫の脳の構造はよく似ているそうでの……。父はかねてより、脳外科手術のために猫の脳組織を用いることの有効性を独自に研究しておったということじゃ」
「じゃあじゃあ、さっきヒカルさんが『半分は猫だ』って言ったのは……」
ヒカルは何も返さなかった。
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