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 少し離れた場所から、その様子をじっと窺っている兄弟がいた。 「ねえ、兄ちゃん、あの人どうしたのかな? 脚が悪いのに、わざわざ丘を登ってきたよ」 「さあね。どうしても景色を眺めたかったんじゃねえの?」 「こんな夜遅くに?」 「夜景を見に、わざわざやって来る奴もいるんだぜ」 「でもあの人、サングラスをかけてるよ。あれじゃあ夜景は楽しめないと思うなあ……。あ、もしかしたら、あの猫のオブジェに会いに来たのかな?」 「ああ、そうかもしれねえな。じっと見上げているもんな」 「きっとそうだね、兄ちゃん。……でも、会いに来て、これから何をするんだろう?」 「そんなこと、わからねえよ。考えたって答えはでねえ」兄はそう言ってクルリと向きを変えた。「さあ、オレたちも帰ろう。腹もへったしな」 「兄ちゃん、ぼく、もう少しあの人のこと見てるよ」 「シンヤ、お前も物好きだなあ……。わかったよ、でもオレは先に帰るからな」兄は二、三歩いてから「あ、そうだ」と振り返る。「あいつに関わるのはやめとけよ」 「わかってるよ」  数秒後、シンヤは、暗がりの中でポツンと取り残されたような格好になった。  ベンチの男は背もたれに身体を預けた姿勢で、まだオブジェを見上げている。
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