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➁
少し離れた場所から、その様子をじっと窺っている兄弟がいた。
「ねえ、兄ちゃん、あの人どうしたのかな? 脚が悪いのに、わざわざ丘を登ってきたよ」
「さあね。どうしても景色を眺めたかったんじゃねえの?」
「こんな夜遅くに?」
「夜景を見に、わざわざやって来る奴もいるんだぜ」
「でもあの人、サングラスをかけてるよ。あれじゃあ夜景は楽しめないと思うなあ……。あ、もしかしたら、あの猫のオブジェに会いに来たのかな?」
「ああ、そうかもしれねえな。じっと見上げているもんな」
「きっとそうだね、兄ちゃん。……でも、会いに来て、これから何をするんだろう?」
「そんなこと、わからねえよ。考えたって答えはでねえ」兄はそう言ってクルリと向きを変えた。「さあ、オレたちも帰ろう。腹もへったしな」
「兄ちゃん、ぼく、もう少しあの人のこと見てるよ」
「シンヤ、お前も物好きだなあ……。わかったよ、でもオレは先に帰るからな」兄は二、三歩いてから「あ、そうだ」と振り返る。「あいつに関わるのはやめとけよ」
「わかってるよ」
数秒後、シンヤは、暗がりの中でポツンと取り残されたような格好になった。
ベンチの男は背もたれに身体を預けた姿勢で、まだオブジェを見上げている。
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