2人が本棚に入れています
本棚に追加
➂
冷たい風が吹いた――
ざわざわと木々が騒ぐ――
シンヤは短く白い息を吐いた。
ぶるるっと震える。身体が冷えてきた。
男が同じ姿勢でいつまでも動かないことに痺れを切らし、シンヤは兄の忠告に逆らってベンチに近づくことにした。
足音を立てずに近づく。
ベンチのところまできて、座っている男を見上げる。
――男は気づかない。
それをいいことに、服装をチェック。
羽織っているグレーのコートも、茶色のズボンも靴も、黒い手袋も帽子も、年季の入っているものだということがわかった。
そして、サングラス。
「外した方がよく見えるのに」と言ってから、シンヤはしまった、と思った。
声に反応して男は、ぎしぎしのろり、とシンヤに顔を向ける。
「あ、あの、えーと、その、こ、こんばんは」一応、挨拶してみるシンヤである。
「こんばんは、黒猫くん。なにか儂に用かね?」
「あれ? ぼくの言葉、わかるんですか? 人間なのに」
「わかるともさ。どれ、寒いだろう?」言いながら男はコートの裾をぎこちなく広げた。「ここに入ると幾らかマシじゃよ」
シンヤはそれに従い、ベンチに飛び乗ると男のコートにもぐり込んだ。
「うん、温かいや。おじいさん、ありがとう」
「ああ、どういたしまして」
最初のコメントを投稿しよう!