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 冷たい風が吹いた――  ざわざわと木々が騒ぐ――  シンヤは短く白い息を吐いた。  ぶるるっと震える。身体が冷えてきた。  男が同じ姿勢でいつまでも動かないことに痺れを切らし、シンヤは兄の忠告に逆らってベンチに近づくことにした。  足音を立てずに近づく。  ベンチのところまできて、座っている男を見上げる。  ――男は気づかない。  それをいいことに、服装をチェック。  羽織っているグレーのコートも、茶色のズボンも靴も、黒い手袋も帽子も、年季の入っているものだということがわかった。  そして、サングラス。 「外した方がよく見えるのに」と言ってから、シンヤはしまった、と思った。  声に反応して男は、ぎしぎしのろり、とシンヤに顔を向ける。 「あ、あの、えーと、その、こ、こんばんは」一応、挨拶してみるシンヤである。 「こんばんは、黒猫くん。なにか儂に用かね?」 「あれ? ぼくの言葉、わかるんですか? 人間なのに」 「わかるともさ。どれ、寒いだろう?」言いながら男はコートの裾をぎこちなく広げた。「ここに入ると幾らかマシじゃよ」  シンヤはそれに従い、ベンチに飛び乗ると男のコートにもぐり込んだ。 「うん、温かいや。おじいさん、ありがとう」 「ああ、どういたしまして」
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