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➃
「ぼく、シンヤっていうんだ。おじいさんは?」
「儂の名前を訊くために、わざわざやって来たのかね?」
「ううん」首を横に振る。「まずは名乗るのが礼儀かな、と思って」
「そうか、礼儀かね」男はハハハと笑う。「では名乗らないわけにはいかんのう。儂の名前は“極光”じゃ」
「うん、わかった。……それにしても、ヒカルさんはすごい人だね」
「ん? どうしてそう思うのかね、シンヤくん」
「だって、ぼく、こんなにちゃんと話が通じる人間、初めてだよ」
「ふふっ……実はのう……儂は……半分は、猫なのじゃよ」
「え~、ウソだぁ~」みゃみゃみゃと笑うシンヤ。
「本当のことじゃよ」言いながら帽子を脱いで見せる。
そのほとんど髪の毛が残っていない頭部の右耳の後ろ辺りに、電子回路のような模様が皮膚を透かして見て取れる。
また、頭頂部から首筋に向かって、閉めたファスナーのような筋があるのもわかった。手術の跡なのだそうだ。
「猫語がわかるようになるための手術?」シンヤは訊いた。
ヒカルは帽子をかぶり直し、その黒猫の澄み切った瞳に促されるように、自分の身の上について話し始めた。
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