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 ヒカルの父親は脳外科のスペシャリストだった。  国内外に関わらず、困難な脳外科手術を何例も成功させ、その名を世界中に知らしめていた。  非常に忙しい生活を送っていたので、家に帰ってくることはほとんどなかった。また、器械出し看護師として優秀な母も父に同行することが多く、ヒカルは事実上、祖母に育てられたのだった。  ほとんど親と会えない寂しさを紛らすためにと、祖母は猫を飼うことを息子夫婦に提案してくれた。それに応じて、ヒカルに与えられたのは一匹のロシアンブルー。  瞳の色がエメラルドグリーンの美しい猫だった。  ヒカルはその猫に“オーロラ”と名付け可愛がった。  だが、2年ほどが経過し、ヒカルが中学に進学する頃、オーロラが病に侵されてしまった。  全身が徐々に硬化して動けなくなり、ついには石になってしまうという奇病だ。  なす術もなく、ただ日毎に身体が硬く不自由になっていく愛猫をヒカルは涙ながらに見守ることしかできなかった。
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