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 大学受験の年、両親が帰ってきた。  世界を飛び回る仕事の量を整理し、しばらくは国内での仕事に従事することにしたのだという。  理由は母の妊娠だった。  日毎に腹の膨れてくる他人のような母の笑顔。  それに寄り添う仮面のような父の笑顔。  母は頻繁に親しげにヒカルに話しかけてきたのだが、どうしても彼はそれに馴染むことができなかった。  また父には、ただ単に何とか生きているだけの硬くなったオーロラを世話し続けるヒカルのことが理解できなかったようで、何度も安楽死を勧めてきた。  それに応じることなど微塵も考えられなかったヒカルは、親との接触を避けるべく自室に籠るようになり、ただ、勉学に励んでいったのだった。  その間、徐々に、徐々に、石化が進行していくオーロラ。  だが、エメラルド色の瞳だけは輝きを弱めたりはしなかった。  
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