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1-3:犬を洗うのは大変なのです
千尋はみるくを抱っこし、翔真の後ろをついていった。カフェの横道から歩いて五分位で、翔真が住んでいると言うマンションに到着した。
「えっ、ここってめちゃくちゃ高いマンション!」
「そうなんですか? ま、上がってください」
オートロックを開けると、ホテルのような高級感溢れる立派なエントランスホールがあった。千尋はその豪華さに目をキョロキョロさせた。エレベーターホーンの手前には受付のようなものがあり、コンシェルジュが二人に対して、会釈をした。千尋はぎこちなく会釈をした。そして、エレベーターで十階まで上がっていった。そして、真っ直ぐな共用廊下を進み、一番奥にある翔真の部屋まで行った。
「はい、どうぞ」
「お、お邪魔します……」
翔真に玄関を開けてもらい、千尋は恐る恐る中へ入る。
「その前に、千尋さんとみるくはシャワー入ってきて下さい。タオルはここ。犬用のシャンプーはこれです。着替えは今準備します。あ、ついでにレオンもシャワーに入れてくれると有り難いです」
「えっ、うん。……分かった。お言葉に甘えて、シャワー使わせていただきます」
翔真にバスルームを案内してもらい、千尋は脱衣室で汚れた服を脱いだ。そして、二匹を連れて、バスルームの扉を開けた。
「――わぁ、バスルームで生活出来そう」
バスルームには、テレビや浴室暖房乾燥機などが備え付けられ、浴槽にはジャグジーらしきものが付いていた。角部屋という事もあり、湯船に浸かった時に丁度見えるように設置された窓からは美しい海と街並みが望めた。
湯が張られていない浴槽に二匹を避難させ、千尋は自分の体を洗う。レオンは千尋をじっと見つめ、みるくはレオンにじゃれついていた。
「先に、大人しそうなレオン君から洗おうかな……。みるくは大人しく待てだぞ!」
千尋はレオンを浴槽から出すと、犬用シャンプーで洗い始めた。
「レオン君の毛並み良いなぁ。やっぱり、お高いシャンプー使ったりしてるからかなぁ。それにしても、大人しいなぁ」
レオンは終始、尻尾を大きく振りながらも、大人しく、比較的簡単に体を洗う事が出来た。
「……問題はみるくなんだよな、大丈夫かなぁ? みるく、おいで。体洗うよ」
千尋はみるくを抱っこすると、足元からシャワーをかけて、暴れないかを確認した。
「あれ? 今日は意外と大人しい。じゃあ、シャンプーしても大丈夫かな?」
千尋はみるくの体を洗い始めた。千尋はシャンプーを出し過ぎたのか、みるくは見る見るうちに泡でもこもこな状態になっていた。
「……あっ、ちょっと! 動くな! お前やめろ! あっ!」
――ガタンッ!
みるくはもこもこが嫌だったのか、千尋に突然飛びかかり、その拍子で千尋は後ろへ倒れた。大きな物音が聞こえたため、翔真は慌ててバスルームの扉を開ける。
「大丈夫か? 今、凄い音したぞ」
「いてててぇ。あぁ、大丈夫」
バスルームでは、みるくと千尋が泡だらけになっており、倒れた千尋の股の間にみるくが項垂れていた。その光景を見て、翔真は思わず笑った。
「本当にドジなんだな、千尋さんは」
「ドジ言うなっ! それはいいから、レオン君のシャワーが終わってるから、拭いてあげて」
「……おう、分かった。あぁ、腹いてぇ」
翔真はレオンを手招きし、バスルームの扉を閉めた。脱衣室でレオンを拭いている最中も、バスルームからはみるくを洗うのに奮闘する千尋の声が聞こえ、翔真はそのやり取りに腹を抱えて笑った。
「はぁ、千尋さんって想像以上に面白い」
千尋はなんとか無事にみるくを洗い終わると、脱衣室にいる翔真に拭くようにお願いした。そして、千尋は再び自分の体を洗った。
千尋が体を洗い終わり、脱衣室で体を拭いていると、着替えの服を持って来た翔真が突然入ってきた。
「千尋さん、服持ってき……ぅおっ!」
そこには、髪から雫を垂らし、薄ピンク色に染まった頬をし、滑らかな肌にプルンとしたお尻を露わにした湯上がり美人な千尋を背中向きで立っていた。翔真はその艶っぽい姿を見て、思わず服を床に落とし、両手で顔を覆った。
「わぁ、ビックリしたぁ。……って、なんで翔真君が恥ずかしがるの」
恥ずかしがる翔真に平然とした顔で千尋は髪をタオルで拭きながら、対応した。
――これが俗に言う、ラッキースケベか。
翔真はそんな事を言いながら、我慢が出来ず、指の隙間から千尋の桃みたいな美味しそうなお尻を凝視し、少し鼻息を荒げた。
「美味しそう……」
「ん? 何か言った?」
「いや! 何でもないです! とっ、とりあえず、服置いておきますね」
翔真はそそくさと脱衣室を後にした。千尋は翔真が置いてくれた服に着替えると、ドライヤーで自分の髪を乾かした。そして、千尋は洗面台の鏡に写る自分の姿を見る。
「ちょ、ちょっとサイズがぁ……」
シンプルなモノトーンチェックシャツではあったが、千尋にはオーバーサイズで股下がギリギリ隠れる程度のものであった。そして、千尋は翔真から借りたボクサーパンツを穿く。
「パンツまで借りちゃったよ……。あれ? ズボン無いんだけど……何処だろう?」
着替えが置かれた辺りを探すが、ズボンは見当たらなかった。千尋は仕方なく、その恰好でリビングへ向かった。翔真がキッチンで飲み物を準備していると、バスルームから千尋の足音が聞こえてきた。
「あ、千尋さん。今、レオンとみるくは仲良く寝ていますよ」
翔真が廊下の方に目を向けると、壁からひょっこりと顔を出す千尋の姿があった。
「あ、あのさ……」
「千尋さん、どうしましたか?」
「いや、これさ……サイズが……大き過ぎない? あと、ズボンが見当たらなかったんだけど。無くてもギリ大丈夫かな?」
千尋はモジモジしながら、翔真の前に現れた。千尋は翔真に見せるようにシャツをひらひらとさせ、その場で一周した。翔真は手で口を押さえ、千尋を上から下へ舐めるように見た。そして、チラチラと見えるお餅みたいなモチモチの色白太ももを凝視した。
――犯罪級にエロい! 触りたい!
「ゴホンッ。……可愛いですよ」
翔真は咳払いをし、澄ました顔で千尋に微笑む。
「だから、可愛い言うなっ!」
千尋は頬を膨らませ、腰に手を当てて怒った。そして、マグカップを準備して、何かを淹れようとする翔真に近寄り、千尋は翔真の手元を覗いた。
「それより、何淹れてるの?」
自分の手元を覗いてきた千尋を横目で見ると、程よく開けられたシャツの襟から千尋の可愛らしい乳首がチラチラと見えていた。そして、シャンプーのほのかな香りがし、翔真はドキドキした。
――無防備過ぎる! あぁ、食べたい!
「ねぇ? 聞いてる?」
千尋は問いかけに反応しない翔真の顔を覗き込んだ。
「すみません。思わず食べてみた……じゃなくて。今、コーヒーを淹れようかなって」
翔真は苦笑いをし、頭を掻いた。千尋は翔真の発言を疑問に思ったが、あまり気にしなかった。
「それより、千尋さんは何飲みます? コーヒーです? あ、千尋さんはココアか」
「だから、子供扱いするな! これでも、コーヒー位飲めるわい!」
「じゃ、砂糖とミルクどうします?」
千尋はモジモジしながら、頬を赤くしていた。
「さっ、砂糖とミルクは……多めでお願いしましゅ」
「はいはい、分かりました」
翔真は笑いを堪えながら、千尋の分を用意した。
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