2-22:またいつもの日常が始める

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2-22:またいつもの日常が始める

「母さん、大賀は?」 「あぁ、今、手が離せないの。今、奥で彼女と秋冬の新作を考え中なの」 「え……彼女?」  千尋は驚き、奥にある厨房をこっそりと覗こうとした時、厨房から大賀が顔を真っ赤にして、出てきた。 「母さん! か、か、か、か、彼女じゃないって!」 「あら、そうなの? 厨房でずっと二人でイチャついているじゃない」 「イ、イチャついてない!」  大賀が母と口喧嘩していると、奥から見覚えのある子が出てきた。千尋と翔真はその子を見るなり驚き、開いた口が塞がらなかった。 「お母様、彼女だなんて……一応、私、男ですよ。……って、なんで二人がいんの!」 「……いや、こっちが聞きたいよ。なんでうちの店に柚葉がいるんだよ」 「……柚葉。お前、元気だったのか。……良かった」 「嫌だぁ、お母様だなんて。お母さん、照れちゃう。もう二人とも結婚しちゃいなさい!」 「な、なんでそういう流れになるんだよ!」  千尋は顔を真っ赤にしている大賀を宥めながら、厨房横にある和室に皆を連れて上がった。そして、土産を開け、ちゃぶ台の上に出した。母はその間に茶を淹れた。大賀の隣には柚葉が座り、ぴったりとくっ付いて、ちゃぶ台の下で柚葉が大賀の手を握ったり、離されたりとイチャついていた。 「とりあえず、母さんから新しくバイトに来る子の話は聞いてますよね? その子が柚葉なんです」 「……聞いてはいたけど。でも、なんで名前教えてくれなかったの?」 「だって、千尋は最近、ずっと部屋に引き籠りだったし、お店の手伝いしてくれないし……。でも、お母さんはバイトの子来るよとは伝えたわよ」 「ま、そうだけどさ……」  千尋は翔真と顔を見合わせた。あの事件以来の再会に、二人はどこか気まずい感じがした。そんなぎこちない雰囲気の中、柚葉は立ち上がり、厨房からカップケーキを持って来た。 「大賀君と一緒に考えた新作のカップケーキです! 折角だし、皆で試食しましょう!」 「う、うん……」  柚葉が持って来たカップケーキは色鮮やかな抹茶色で、その上に大粒の大納言小豆がちょこんと乗った和風なカップケーキだった。千尋はそのカップケーキを半分に割ると、香りを嗅ぎ、ひと口食べた。小豆の上品な甘みと宇治抹茶の濃厚な香りと味が口に広がった。千尋と翔真はあっという間にペロッと平らげ、母が淹れた濃い目のお茶を飲んで、まったりとした。 「はぁ……、これ、美味しい! 幸せぇ」 「本当に美味しいですね!」 「良かった……」 「じゃ、これを秋冬の新作にしましょ! 柚葉ちゃんと大賀の愛の結晶よ!」 「だから、母さんはなんでそういう風に話を持って行くんだ!」  柚葉がホッとしたのか安堵の表情になると、それに釣られ、大賀の表情が柔らかくなり、ちゃぶ台の下で柚葉の手を握った。それに気付いた柚葉は顔を赤くし、少し俯いた。全会一致で新作が決まると、柚葉と大賀は再び厨房へ行くと、材料の在庫確認を仲睦まじくやっていた。母は翔真にべったりで、温泉旅行の話を根掘り葉掘り聞いていた。千尋は階段を上がり、自室へ荷物を置きに行った。いつもの光景に帰って来たんだな、と少し残念な気持ちになった。 「はぁ……帰ってきちゃった。またいつもの日常かぁ」 「千尋さん……部屋入ってもいいですか?」  千尋が机に出しっぱなしの原稿用紙を片付けていると、ドアをノックする音が聞こえ、翔真が部屋へ入ってきた。 「散らかってるよ、翔真みたいにお洒落な部屋でも無いし……」 「千尋さん……」  翔真は千尋を後ろから抱き締めた。千尋は無言のまま抱き締めてくる翔真の腕にそっと手を置いた。 「……どうしたの?」 「千尋さんともっと一緒にいたいです……」  千尋は翔真の腕を解くと、向かい合わせになり、次は千尋から抱きついた。 「僕も一緒だよ。翔真とずっと一緒にいたい」 「千尋さん……」 「僕も翔真と出会えて良かったって思ってるよ。……こんな僕だけど、これからもよろしくお願いします」 「はい、俺からもよろしくお願いします」  翔真は千尋の額に優しくキスをする。千尋は翔真にキスされた部分に手を当て、少し照れた。そして、お互いに見つめ合った。 「千尋さん。またあの日みたいに十秒だけ……俺に時間をください」  千尋が無言で頷くと、翔真は深いキスをしてきた。いつもしているキスよりも甘くて熱くて、さっき食べたカップケーキの味がほんのりする、そんな感じだった。お互いに十秒なんて関係なく、何度もキスをした。 「翔真。……十秒、とっくに過ぎてる」 「……十秒じゃ足りない癖に」  翔真は千尋の額に自分の額をくっ付けると、クスリと笑い、額をスリスリしてきた。こんな日常も悪くないか、と千尋は思い、含み笑いした。
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