山上先生は語らない

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 誰かが大きく欠伸をした。校庭からは鈍く弾むボールの音と、それを追いかける生徒たちの声が聞こえてくる。  現代文の山上(やまがみ)先生の授業はいつも退屈だ。先生はいつも穏やかな声で穏やかな顔のまま教科書を読む。生徒に問題を解かせている間は椅子に座ったまま静かに外を眺め、誰かから質問が上がれば机に手をついてゆっくりと立ち上がる。180cmはあるであろう身体を少しも屈めることなく、ノートに触れないままに指を伸ばして当該の箇所を示し、生徒の頭よりもさらに高いところからそれに応える。しゃがみこんだり親切にノートに何かを書き込んだりはしない。ただ、穏やかな声のまま。そんな先生の口から出る質問の答えは的確かつ過剰すぎないものであり、それだけを伝え終わるとまた席に戻っていく。「必要最低限」という言葉が良く似合う人だと思った。
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