山上先生は語らない

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 山上先生はとても容姿が良く、着任当初から校内で騒がれていた。だが誰に対しても同じように過不足なく振る舞うその穏やかすぎる対応と、掴みどころのない不気味な存在感に、皆、徐々に興味を失っていった。皆怖かったのかもしれない。こちらに利益だけを与え続ける存在などこの世にそう存在するはずが無いということを高校生にもなれば嫌でも分かってくるはずだ。先生の穏やかすぎるやさしさは、思春期の生徒たちをどこか不安させるような怖さを含んでいたのかもしれない。  かく言う私もそうだった。どこか畏れのようなものを山上先生に抱き、そしてそれが育むかのように好意まで抱いていた。畏れが孕む好意というものは、なかなかにしぶとく厄介で、私はいつだって山上先生から目が離せないでいる。  こんなにも暇で仕方ないこの授業だって起きているのは私くらいだった。薬物のように、見れば見るほどに引き込まれていく。まあ、とはいえ薬物なんてものはやった事がなく想像でしかないのだけれど。
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