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決着
バシュッ!
頸動脈から鮮血が飛び散る。勝負は一瞬で決まった。太陽さんの攻撃をかわしてカウンター気味に俺の振ったナイフが急所を捉えた。豪快に倒れ込んだ太陽さんが動かなくなったのを確認し、俺は目を瞑り、ふ~っと溜め息をついた。
涙も出ない。尊敬していた兄を殺された悔しさと、慕っていた太陽さんに裏切られたショックはあるが、もう全て終わってしまった事だと脳が切り替えたようだ。
太陽さんの誤算は、俺も初の殺しに躊躇する隙が出来ると踏んでいた事だろう。だが残念ながら、俺にとって初めての殺人では無かった。
殺し屋という職業への尊敬で記憶から忘れ去られていたが、父親の引退宣言を聞き、俺の心の奥にある、何とも言えない嫌な感情が蘇ったのだ。トラウマだからと一言で片付けられるモノでは無い。兄貴との差別扱いや DV による苦痛は時が経っても解決するものでは無かった。
父親を俺の視界から完全に消さなければ、まともに寝る事すら出来なかった。あの男を見るだけで胃の奥から気持ちの悪いモノが絶えず沸き上がって来ていたのだから……。
昨日からの疲労が一気に出て、俺はガクッと片膝をついた。カンカンカンカンという天井の音に気付き、立ち上がって見上げると、ポタポタと雨漏りがしており顔が少し濡れた。外では雨が降りだしたようだ。
俺は再び2人の遺体を確認し、当分の間、呆然と立ち尽くした。
了
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