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金次
小さい頃、父親の事が大嫌いだった。愛情を注いで貰った記憶なんて一切無い。父親は兄貴の事を拓水と名前で呼ぶのに、俺の事は金次という名前では呼んでくれず、オイっと呼ばれていた。出来の良い兄貴と出来の悪い俺との才能の違いが直ぐに分かったのだろうと思う。兄貴は、スポーツに限り、何をさせても学年トップだったが、俺は良くても5番手程度。父親は事ある毎に俺を叱った。青アザの絶えない日々……。そんな事もあり、俺は父親の顔を見れば吐き気がするぐらい憎んでいた。
母親はと言うと、俺が赤ん坊だった時に家を出て行ったらしい。俺には母親の記憶は全く無いし、写真等を見せて貰った事も無い。1つ歳上の兄貴は僅かに母親の記憶が残っているそうだが、もし、町ですれ違っても気付かないだろうと言っていた。
ただ、父親が嫌いだったというのは小学生の時までで、その後は尊敬に変わった。兄貴が中3、俺が中2の時、父親の職業が殺し屋だという事を教えられたからだ。殺し屋と言ってもライフル銃を構えて、遠くから撃ち抜くようなタイプでは無く、ターゲットに気付かれずに近付き、ナイフを使って暗殺するというもの。俺達兄弟は殺し屋という職業に憧れ、自然と父親を師と仰いでいた。
父親には10歳歳上の兄、つまり、俺達の伯父にあたる太陽という人がいて、元々、彼が殺し屋として父親の先輩になるそうだ。現在では殺し屋を事実上引退し、能力も落ちているとの事だ。あくまでも噂だが、太陽さんはかなりの浪費癖があり、過去に自分が殺し屋として稼いだ金はおろか、父親からも無心してギャンブルや女に使い込んでると言うのだ。結婚もする気が無いようで、一生遊んで暮らすと言っていた。太陽さんは俺達には優しかったが、元殺し屋という事もあって、感情が無いかのように冷徹な発言をする事がある。恐らく、大金を貰える仕事となれば俺達が相手だろうと殺すだろう。だが、俺達も殺し屋を目指すのであれば、そうならなければならない。殺し屋に情は不必要だ。
俺達は日々、4人でトレーニングを積んだ。筋トレに始まり、殺し屋としてのテクニック、寸止めの組手や柔術を学んだ。
兄貴は強い。年齢差に依るものも大きいが、間違い無く俺より素質があったので、トレーニングでは1度も勝った事が無かった。当然、父親はもっと遥かに強い。
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