第1話 好きになってごめん。

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「静、おせぇよ。待ちくたびれたわ」 「ごめんって。ゲーム何やる?」 「ゾンビゲーム。どっちがたくさん撃てるか」 「却下」 「冗談だって! 本当ゾンビ嫌いだよな、静は」 「びびりで悪かったね」 どうせ今は静の家でしかゲームできないからと気づいたら我が家にコウちゃんの持っていたゲーム機が置かれている。 俺がコウちゃんちに赴く機会が一切無いのもあるだろう。 彼の私物はゲーム機以外にもいくつか我が家に置かれている。それだけ自宅よりも俺の家が居心地の良い場所なんだと理解できる。 寝室以外は全部新しい家族のもので、自分は居候のような感覚がして自宅にいるのを彼は嫌う。 まだ幼い腹違いの弟も新しい母親も実の父親もコウちゃんからしたら敵であり、家族とは一切認めていなかった。 「母ちゃんが危篤って連絡した時にさ、向こうから女の声がしたわけよ。それが今の母親。親父はさ一度も母ちゃんの見舞いに来ないで新しい女と子供作ってたわけ、母ちゃんが病気で苦しんでる間」 中1の時にコウちゃんは俺に打ち明けた。 彼も彼で痛みを抱えている。 だから、学校の友達や彼女といる時よりも俺といる時が一番気が楽だといつも言っている。 静だけは絶対に俺を見離さない自信があるからと。 「はぁ、また負けたっ」 「静より俺のがゲーマーだからな」 「じゃあ、今日はベッドがコウちゃん。俺はリビングのソファーで寝るよ」 「部屋に布団敷けば良いだろ」 「えっ」 「一人で居ると色々考えて落ち着かないだろ」 そうだ、両親が亡くなってすぐ泣きながら眠る俺の背中をずっとさすってくれてたな。 でも、今は別の意味で落ち着かないんだけど。 布団を敷くと、コウちゃんはすぐさま布団に飛び込んだ。 「えっ? ベッドは?」 「今日は布団の気分なんだよ」 「気使わなくても」 「良いから。その代わり、明日ラーメン味のアイス奢りな。ゲームは俺が勝ったんだから」 「何その不味そうなアイス」 「美味いんだからな!?」 「ありがと、コウちゃん。おやすみ」 「おぅ!」 眠れるわけもなかった。 こんなに近いのに触れられない、好きと言えない。 俺の秘密はいつまで隠し通せるだろうか。 俺の気持ちなんて知らないコウちゃんは布団に入ってすぐ眠った。相変わらず腹の立つ寝付きの良さだ。 好きになってごめんね……。 何万回目かの謝罪を心の中でして、そっと目を閉じた。
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