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「コウ、今日うち寄ってってよ? 親いないし」
「えっと、今日は……」
「良いよ。ばあちゃんの見舞いなんていつでも」
放課後、彼女から誘われて渋っているコウちゃんに対して俺は素っ気なく言い放つ。
「いや、今日行く! 今日行くって決めたから。そういうわけだから悪いっ」
彼女に軽く謝罪をすると、コウちゃんは俺の元へ。
「良いの?」
「ああ。俺もばあちゃん心配でたまらないし」
「ありがと……」
「あと、オムライスも約束したからなっ」
「オムライスのがメインってばあちゃんに言うね」
「はぁ!? 違うからなっ」
「はいはい」
彼女より自分を優先してくれた事が嬉しくてにやけてしまいそうなのを抑える。
そんなちっぽけな事で喜んだって俺はあの彼女のポジションにつく事なんて一生無いのに。
バカだよね、俺は。
「ばあちゃん、着替えと本持ってきたよ」
「ありがとうね、静。皇くんも来てくれてありがとう」
「倒れたって静から聞いた時は心配したんだからな!」
「しかし、暫く見ないうちに大人っぽくなって。静と同い年とは思えないわ」
「静はちっちゃくて細くて顔も幼いからな! 中学生みたい」
「うるさいよ、コウちゃん」
病院に着くと、祖母は二人で見舞いに来た事を喜んだ。
「早く家に帰りたいねぇ」
「だめだよ。先生に止められたでしょ。俺もできるだけ顔見せるから」
「そうだよ、ばあちゃん! しっかり入院してしっかり治そ!」
コウちゃんは笑顔で励ます。
退院を許して貰えないという事は祖母の身体がそれだけ重篤な事を意味していた。
祖母は末期の癌を患っている。
その為、もう成す術が無い事は祖母も俺も理解していた。
抗がん剤を投与しながら様子を見る事しか出来ない。
俺はもうすぐたった一人最後の家族を失う事となる。
「皇くんが静の友達なのは本当に安心する」
「えっ」
「これからも仲良くしてあげてね」
「もちろん! 俺と静は腐れ縁だからっ! 今日もさ、また同じクラスになったんだぜ!? すごくない!?」
興奮しながらコウちゃんが学校の話をすると、祖母は微笑みながら話を聞いていた。
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