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「来てくれてありがとう。ばあちゃんすごく嬉しそうだったよ」
「静、ばあちゃん……もう長くないのか?」
病院から出ると、コウちゃんはすぐさま聞いてきた。
「末期の癌だから成す術が無いんだって。本当はばあちゃんは家で最期を迎えたいんだと思う。だけど、叔母さん達がこっちに来て介護する事は難しいし、高校生の俺が学校を休んでまで介護をする事も出来ないから」
「そう……だよな。入院するしか無いのか」
「俺が高校生じゃなくて立派な社会人だったらどうにかしてばあちゃんを家で看取る事は出来るけど……」
無力な自分にひたすら失望する。
「静……大丈夫か?」
「ばあちゃんと暮らす事になった時から覚悟は決まってるよ。大丈夫」
「でも……」
「家族を失う事は慣れてるから」
本当はその日が来るのが怖い。
俺はまたあの悲しみを味わうのか。
深い深い海に溺れたような息苦しいあの感覚を。
「大丈夫って言って……一度死のうとしただろ」
「あの時は幼かったから」
「静っ」
「今の俺は昔より強いから」
コウちゃんを安心させるために無理矢理笑顔を作った。
「そういえば、2年になった事だし……静は進路決まっているのか?」
俺の家に着くと、早速夕飯の支度をしている俺の横に来てコウちゃんは進路について聞いてきた。
「進学するつもりではあるよ。美容系の専門学校」
「大学行かないのか? めちゃくちゃ頭良いのに」
「母さんがやってたあの店を復活させたいんだ。コウちゃんの髪、よく切ってるし……美容師になろうかなって」
俺の母親は美容院を経営していた。
時折、母の店を訪ねてはお客さんに魔法をかける母の姿を見るのが俺は何より好きだった。
「でも、大丈夫か? 美容師ってコミュ力ある人ばっかじゃん」
「まあね。でも、コウちゃんの髪いじる度に俺も美容師やりたいなって思って」
「そっかー! 静は美容師になるのか! 俺は進路どうしよっかなぁ。静みたいに勉強できるわけでもないし」
「ホストは? コミュ力あるし」
「進路相談表にホストって書いたらぶっ飛ばされるだろ」
「ご両親は進路について何も言わないの?」
「親父は俺に任せるってさ。関心無いんだよ」
コウちゃんは冷めた目で答える。
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