第1話 好きになってごめん。

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「そうだよな。静はそういう奴だもんな。でもさ、たまにはクラスの集まりとか出てみたら?」 「静に興味ある奴もいるだろうし」 「空気凍りつかせるだけだよ」 「そんな事……」 「俺はコウちゃんがいれば良い」 それが決まり文句になっている。 コウちゃんに依存している証拠だ。 「まあ、それだけ静が俺を信頼してくれてるのは嬉しいけどなっ」 「学生である内は好きな相手とだけ関わっていたい。社会に出たらそうも言ってられないでしょ? 嫌な相手とだって関わる必要がある」 「高校生らしからぬ発言だな」 「会社員が主人公の小説も山ほど読んでるから」 「静の2番目の相棒はいつだって本なわけだわ」 コウちゃんや親族以外と関わりが無い分、本が色々と俺に教えてくれる。 本は俺に知識を与え、現実逃避出来る場所を与え、友人のように寄り添ってくれる。 「たまにはコウちゃんも本を読みなよ。バトル漫画ばかりじゃなくてさ」 「バトル漫画も面白いんだからな!?」 「だから国語が苦手なんだよ」 「国語も、な!」 「宮沢賢治の短編集とか読んでみたら? 小学生向けのレーベルで文庫化されてるくらいだし、読みやすいと思う」 「そうかぁ?」 「俺とコウちゃんって本当真逆だよね」 「静は漫画あまり読まないもんな。でも、真逆だから面白いんだろ」 確かにそうだとは思う。 漫画ばかり読むコウちゃんと小説ばかり読む俺。 不良が出てくる映画が大好きなコウちゃんと時代劇が大好きな俺。 真逆だからこそ、お互いの趣味嗜好について話す時に自分の知らない知識を得られて面白い。 「あ、でも料理漫画だったら静も面白いんじゃね? 料理好きだし」 「料理漫画かぁ。確かにそれなら読みやすいかも」 「そんで俺が食べたい料理を静に作って貰う」 「コウちゃんが漫画に出てくる料理食べたいだけじゃん」 「静がその漫画ハマれば二人で楽しめるじゃん」 「それもそっか。じゃあ、コウちゃんは宮沢賢治履修って事で」 「読み切ったらご褒美な!」 「えー!」 「静が漫画読む事より俺が小説読む事のがリスクあるから」 「漫画に出てくる料理だけでなくご褒美まで要求しやがった」 家に一人で居ると、祖母の事が心配で不安な気持ちでいっぱいになるというのに今は気持ちが落ち着いてる。 コウちゃんがいるからだ。
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