32人が本棚に入れています
本棚に追加
コウちゃんがいてくれれば俺は平静を保って居られる。
両親を失った直後からずっとそう。
「コウちゃん、俺洗い物しちゃうから先に風呂入ってきて」
「俺も手伝う」
「良いよ。余計な事しなくて。コウちゃん皿割りそうだし」
「えー? 俺、これから居酒屋でバイトしようと思ってるのにっ」
「予行演習にウチを使うな」
「はいはい。先入ってきますよーだ」
結局、コウちゃんが泊まる事になった。
昔と違って今は色々きつい。
俺の部屋で寝るわけだし。
「静ー、アイスある? ソーダのやつ」
風呂から上がるなり、コウちゃんはパンツ一丁で出てきた。
その瞬間、俺は持っていたグラスを床に落としてしまった。
「割るなって言っておいて静が割ってるじゃん」
「ごめん。片付けるから! てか、さっさと上着てよ」
「この方が楽なんだよ。家では出来ないけど」
「風邪引くからっ」
「静はお母さんかよ」
コウちゃんは唇を尖らせながらスウェットに着替える。
こんな事で狼狽えてしまう自分が本当に嫌だ。
「はい、アイス」
「サンキュー! やっぱり風呂上がりはアイスだよな」
「俺も風呂入ってくる」
「風呂から上がったら、ゲームな!」
「じゃあ、セッティングだけしておいて」
「分かった!」
コウちゃんに出会った時からずっと自分が普通では無い事を自覚していた。
俺は今迄の人生でコウちゃん以外の同級生を信頼する事が出来ずにいた。それだけではない。
俺がずっと恋愛感情を抱いているのはコウちゃんにだけ。
女の子に対してドキドキしたりだとか、AVを見たりだとかそういった一男子が経験した体験をしてきた事が一切無い。
本当に俺の中ではコウちゃんが全てだった。
異性には一切の関心も無いし、かと言って他の同性に心惹かれた事も無い。
ずっと胸の奥に仕舞っている俺の秘密。
一番信頼しているコウちゃんには殆どの事は話すのに、この事実だけはずっと隠している。
そうする事でお互いの関係に均衡を保てるから。
お互いの為だと我慢する事を9歳で選んだのだ。
最初のコメントを投稿しよう!