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初めてのバレンタイン
2月14日。
バレンタインデーとか言って、世間は浮かれているけれど僕にとっては普段となんら変わらない。
僕は、15年の人生の中で、母と姉の夏菜以外からチョコレートをもらったことなどない。
別にかまわない。
毎年この日が来ると学校の連中どもは、女子も男子もみんなして朝からそわそわと落ち着きがなく、みっともない。見ているこっちが恥ずかしくなる。
男どもは、時に堂々と、時に心の内で、受け取ったチョコレートの数を競い合う。
チョコレートのひとつやふたつで、何がはかれるというのだろう。実にくだらない。そんなことではしゃいでいる暇があるのなら、英単語のひとつやふたつでも覚えれば良いものを。期末テストが迫っている。
僕は普段どおりの1日を終えて帰路につく。もちろん、下駄箱の中にはスニーカー以外何もない。
正門を出たところで、数名の女子が輪になって何やらひそひそと話している。誰かを待っているのだろうか。通り過ぎる僕にちらりと目をやるが、すぐに気まずそうに目を逸らす。
かまわない。
僕は、15年の人生の中で、母と姉の夏菜以外からチョコレートをもらったことなどない。
ーーーだがしかし。
今この瞬間、歴史は塗り替えられようとしていた。
目の前の玄関扉の取手に、見慣れぬ紙袋がぶら下げられているのだった。
赤とピンクのチェック柄。これはまさに。
初めてのチョコレートを前にして、僕の心臓はもうカーニバル状態。
はやる気持ちを抑えきれず紙袋に伸ばした指先は情けなくも震えている。
ついに僕にも、この日が来てしまったか。
ーーー紙袋の中には、数冊の漫画とメモが添えられていた。
『夏菜へ
借りていた漫画を返すね。ありがとう!
面白かったよ^^
春香より』
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