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「先輩、今日も嘘死ですかね?」
「ああ。通報者の言っていた、倒れていた人の特徴は噓死のものと当てはまるからな。確か、現場はここら辺じゃなかったか」
「先輩、あの通報録音したものなんですよ」
現場へと車を走らせていた運転席の後輩は、突然態度を変え、車両を歩道側に駐車した。
一体何を言い出すのだろう。
「おい、何しているんだ」
横を向いた俺の額に黒く冷たい何かが突き付けられる。
「先輩、俺のこと覚えてないんですね」
「はぁ?? 何を言い出すんだよ? 後輩でしか俺はお前を知らない」
「ええ。そうですよ。後輩です。でも後輩になる前、あなたもニュースで観たことがあるはずです。あの頃は僕、父さんとうまくいっていなかったんですよ。結婚の話で父さん、納得してくれなくって。でも次会いに行くときは必ず認めてもらえるようにしようと思っていたんですよ。あの日、会う約束をしていたんです。でも、父さんは——」
黒く冷たい何かからは、引き金が引かれる音がした。
「父さんは、褒め言葉を言うのが恥ずかしかったみたいで、僕が小さい頃から褒める代わりに、僕が好きなイチゴミルクの飴を渡してきていたなぁ。懐かしいや。父さん。でもね、もう犯人見つけたから安心して。もう楽になってね父さん」
俺のこめかみに一滴の汗が流れた。
死を覚悟したその時、俺は全身の我慢できないかゆみに襲われた。
かゆいかゆいかゆいかゆいかゆい
かと思うと、肺が苦しい、呼吸ができない。喉からゼーゼーと音がする。
右手で喉を抑えながら、左手で体の至る所を搔きむしった。
狭い車内でじっとしていることに耐えられず、突きつけられた銃も気に留めずに俺は勢いのまま外に出た。
ふらふらとしながら、車が走る方へ向かった。
突然、車道に警察官が飛び出してきたことで周囲も動揺している。そばには慌てて車から出てきた後輩が口を開けて見ている。
ああ。やっと楽になれる。
そう言い残し、俺は苦しみながら生涯を終えた。
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