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「──わたし、入江くんが一緒に入社してくれてよかった。すごく心強いよ」
「……? そうか? 改めて言われると、なんかこっ恥ずかしいな。でもなんで?」
しみじみと目を細めるわたしに、入江くんは首を傾げた。
彼は知っているのだ。わたしがある人からの着信にビクビクしている理由を。でも、彼を困らせたくないから、わたしは言わない。
あのことは、わたしにとってはもう終わったことのはずだから……。
「……あっ、ほら! わたしって人見知りだし。誰か一人でも知ってる人がいてくれたら安心かなー、って」
「そっか。もう学生の頃とは違うんだからさ、お前も友だち作れよ? オレにばっかり頼られても困るしな」
彼はその後、「……でも、ちょっとは頼ってもらいたいかな」と付け足した。
「うん。どうしても、って時は頼りにするね。──じゃあ行こっ! わたしたち二人で一番乗りして、やる気アピールしようよ!」
わたしは駆け足になって、入江くんを「早く早く!」と手招き。そんなわたしを見て、彼は半分呆れたように笑っている。
「おいおい、そんなことでやる気アピールしてどうすんだよ。つうかお前、そんなヒールの高い靴で走ったらコケちまうって」
「大丈夫だよ。就活で慣れたから!」
「いや、そういう意味じゃなくて。……まぁいいや」
彼は続けて何か言おうとしたけど、何故か途中でやめて肩をすくめてわたしについて走ってきた。
──篠沢商事本社の敷地に一歩足を踏み入れると、社屋のビルへ向かう途中に植えられた何本もの桜が満開になっている。
まるで、今日からこの会社の一員になるわたしたちに「おめでとう」「よろしく」と声をかけてくれているような気がして、わたしはワクワクしていた。
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