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「あー、ゴメンね! 初対面なのにちょっとフレンドリーすぎてビックリさせちゃったよね? あたし、今井佳菜っていうんだ。――名前、訊いていい?」
佳菜ちゃんと名乗ったその子は、悪い子ではないらしい。ただ、いきなりグンと距離を詰められたような気がして、わたしが勝手に怯んだだけ。
でも、社会人になったんだから、このままじゃダメだ。わたしも変わる努力をしなくちゃ!
「……ううん。わたしの方こそ、引いちゃってゴメン。子供の頃から人見知り激しくって。――あ、名前は矢神麻衣。よろしく、佳菜ちゃん」
ちょっとぎこちないながら、わたしは初対面の佳菜ちゃんに笑って見せた。
「ありがと、麻衣。……あ、いきなり呼び捨てはダメだよねぇ? ゴメン、またやっちゃった」
「そんなことないよ。よかったら友だちになってほしいな。……佳菜ちゃんさえ、迷惑じゃなかったらだけど」
久しぶりに、もう本当に大学入学以来に、わたしには女の子の友だちができそうな気がして、わたしは嬉しかった。もちろん、それは「男友だちが多かった」という意味でもなく、友だちがほとんどいなかったという意味である。
「迷惑なんかじゃないよぉ、全然ー。いいよ、友だち関係成立! じゃあさ、連絡先交換しよ? スマホ持ってる?」
「うん。……あ、ちょっと待ってね。わたし電源切ったまんまだったから」
「え、電源切ってたの? わざわざ切らなくてもさぁ、そこはマナーモードでよくない?」
佳菜ちゃんの言うとおり、「入社式の式典中は携帯の電源を切らなきゃいけない」というルールはなかった。要は着信音さえ鳴らなければいいわけで、マナーモードにしておくだけでもよかったのだけれど。
「うん……、そうなんだけどね。ちょっと事情があって」
「事情?」
佳菜ちゃんは何かを悟ったのか、キレイに整えられた眉をひそめる。
案の定、わたしが電源を入れた途端にそれは起こった。雪崩のようなショートメッセージ、メール攻撃に莫大な回数の着信。それも、ほとんど全部同じ人物からの。
その人物の名前は、宮坂耕次という。
「……やっぱり、こうなると思った」
わたしは盛大なため息とともに、そう吐き捨てた。
「…………なんか、スゴいことになってんね? 麻衣、大丈夫?」
「大丈夫。マナーモードにしたから、もう音は気にならないし。……連絡先、交換しよ?」
「うん。――困ってるならいつでも相談しなよ? あたしでよければいくらでも聞いたげるから」
「……ありがと」
連絡先の交換が済むと、佳菜ちゃんは頼もしくそう言ってくれた。
できることなら、誰もこの問題に巻き込みたくない。……でも、話を聞いてもらうくらいならいいかな、と思う自分がいた。
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