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「――そういえば、配属先ってもう見た?」
わたしは佳菜ちゃんに訊ねた。もし配属先も同じ部署だったら、仕事も楽しそうだなぁと思っていたのだけれど。
「うん、見た見た。あたし、人事部の労務課だってさ。――そういう麻衣は?」
「まだ……これから見るとこ。――えーっと……、人事部の……秘書室?」
自分の意外すぎる配属先に、わたしの思考回路は数秒間フリーズしてしまった。
「へぇー、秘書室かぁ。おんなじ人事部でも業務内容全っっ然違うよね。フロアーも別だし」
「……ええっ、そうなの!?」
そういえば、労務課を含めた人事部の本部は三十階だったような……。ちなみに、同じ人事部の管轄でも秘書室は重役専用フロアーの最上階、三十四階にあるらしい。
「どうして秘書室も同じ三十階にしてくれなかったんだろう……、って言ってもしょうがないけど」
「まぁ、そんなに落ち込まないの、麻衣。そのために連絡先交換したんじゃん? 気がねなく、いつでも連絡してきなよ」
ガックリと肩を落とすわたしを、佳菜ちゃんはお姉さんみたいに励ましてくれた。
「終業時間後に一緒にゴハンとかカラオケとか、あたしはいつでも付き合ってあげるからさ。幸い彼氏もいないし、身軽だし」
「うん。……って、えっ? 佳菜ちゃん、彼氏いないの?」
意外なカミングアウトに、わたしは思わず佳菜ちゃんを二度見した。
「いないよん。大学卒業前に別れたんだぁ。相手、大学の同期だったんだけどさぁ、もうガキすぎて合わなくて」
「へぇー……、そうなんだ……」
大学の同期性を「子供」の一言でバッサリ斬り捨てられる佳菜ちゃんが、わたしにはすごくオトナに見えた。
わたしと入江くんも大学の同期だけど、入江くんを子供だと思えるほどわたしはオトナになりきれていない。それとも、わたしの方がお子ちゃまなのかな……。
っていうか、どうしてわたし、入江くんのこと考えてるんだろう?
「うん。――んで? 麻衣は、彼氏いるの?」
「…………えーっと……、いない…………かな」
佳菜ちゃんに訊かれ、ついさっきまで入江くんのことを思い浮かべていたわたしはうろたえた。
「ふぅん? 『いない』っていうわりには、なんかめちゃめちゃ長いタメあったけどねぇ?」
「…………」
痛いところを衝かれ、わたしはグッと詰まった。
「ホントはいるんじゃないの? 気になってる人の一人くらい」
「…………だから、いないってばそんな――」
「矢神ー、配属どこになった?」
そんな人、と言いかけたタイミングで、入江くんがわたしと佳菜ちゃんのいるところへ飛んできた。
慌てるわたしと彼を見比べて、佳菜ちゃんは新しいオモチャを見つけた子供みたいに目をキラキラ輝かせている。
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