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「――新入社員のみなさん。これから各部署によるオリエンテーションに入ります。配属された部署ごとに集合して下さい」
ワチャワチャとお喋りできたのはここまで。人事部の人――でも部長さんではなかった――が、集合を呼びかけた。
会場には、各部署の名前が書かれたプラカードを持った担当の社員さんたちがいる。そこに集まって、ということらしい。
ここからがわたしたちの、本当の社会人デビューだ。オリエンテーションの後には、初仕事が待っている。
「おっと! もうそんな時間か。――んじゃ、オレ行くわ。昼メシは一緒に社食で食おうな!」
入江くんはわたしと佳菜ちゃんにそう言って、さっさと〈総務課〉のプラカードを持った四十代半ばくらいの女性のところへ行ってしまった。
「あの人が、新しい総務課長さんみたいだね。――さてと、麻衣。あたしたちも行こっか。人事部は集まる場所一緒みたいだよ。秘書室も」
「うん」
わたしと佳菜ちゃんは、一緒に〈人事部〉のプラカードのところまで行った。
そこは小さないくつかのグループに分かれていて、多分人事部の中でも〈労務課〉とか〈秘書室〉とか、小さなセクションごとに集まるようになっているのだろう。
「――麻衣、あたしこっちみたいだから。入江くんじゃないけど、お昼一緒に食べよっ!」
「うん! 佳菜ちゃん、また後で!」
――秘書室に配属されたのは、わたしも入れて四人だった。そのうち一人は男子。彼はちょっと肩身が狭そうだ。
やっぱり、秘書室はこの会社でも女性の比率が高いのだろうか……。
「新入社員のみなさん、秘書室へようこそ! ……なんちゃって。ちょっと絢乃会長のマネしてみました! ――私は社長秘書の小川夏希です。よろしく」
秘書室の案内係は、このちょっとおちゃめなお姉さんだった。
年齢三十歳前くらいかな? 肩にかかるくらいのセミロングヘアーに緩くウェーブがかかっていて、絢乃会長ほどではないけどキレイな人。わたしのフレッシャーズと同じようなビジネススーツをカッコよく着こなしているあたり、ちょっとオトナの余裕みたいなものを感じる。
ふとステージの方を見れば、会長もスラッとした長身の男性に促されて退場されるところだった。男の人は二十代半ばくらいかな? まだ若くて(とはいってもわたしよりは絶対に年上だ)、優しそうな顔立ちをした人である。
「――小川先輩、会長とご一緒にいるあの男性は?」
あの人、どこかで見憶えが……。そう思ったわたしは、新入社員の点呼を終えた小川さんに思いきって訊ねてみた。
「あなたは……えーっと、矢神さんね。――あれはウチの主任を務めてる桐島貢くん。会長付秘書でもあるの」
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