導火線は、冬にこそ走り。

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 ところが、冬の初めから現在にかけて、メルには気になるものがあるようだ。    それは、庭にやってくるハクセキレイという小鳥だった。    全体的に灰色で、胸が黒く、腹部は白い。捕まえた瞬間に死んでしまいそうな小柄さでありながら、人懐っこく、人間をあまり怖がらない。    調べてみると、水場が近くにある場所や、川の下流域を好み、そうした場所なら市街地でも確認されるらしい。元々日本では北海道にしか生息しておらず、本州では見られない鳥だった。でも、一九三〇年代から勢力を拡げ、およそ百年の歳月をかけて、今では日本全域で姿を見られるようになった。何世代にもわたり、日本統一を成し遂げた大大名の小鳥なのだ。    ハクセキレイは、冬は単独で、夏はつがいで行動するという。よって冬の現在は単独行動をしている。うちにいつも遊びに来る子は、縄張りの都合上、ひとりしかいない。  私はその子をコピアと名づけた。もちろん勝手な呼称のため、当人の許可は取っていない。きっとコピア自身も、自分の名前がコピアだとは分かっていない。  日に三度、私は飯米(はんまい)を与えた。庭先に、小ぶりな米の山を作り、いつでも自由にお食べなさいと、干渉もせずに置いていた。  頃合いを見て庭に行くと、いつも米の山は消えていた。そして十二月のある日、コピアの体型が丸っこくなっていることに気がついた。太らせてしまって申し訳ないと思いつつも、ころころした小鳥が何とも可愛らしく思え、私は適量を心掛けながら、その後も飯米を与え続けた。
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