導火線は、冬にこそ走り。

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 可愛い子たち、と私は思う。  ふたりは、どちらも毎日頑張って生きている。人間よりも短く儚い寿命を、走り抜けるようにして生きている。    人によっては害獣や害鳥にしか映らないだろう。私はそうした意見にも、相応の理由があると知っている。メルの毛は猫アレルギーの人にとって有害だし、コピアの糞も有害と捉える人は必ず存在する。だからこそ、私はふたりを愛していたい。何の感謝をされずとも、その存在を心に焼きつけておきたい。愛された生涯だったと思ってほしい。そんな気持ちが微塵もなくたって、人間に守られたと思ってほしい。  ふたりを有害とする人には、私が誠心誠意の謝罪をしよう。  私の行いが有害だとする人にも、誠心誠意の謝罪をしよう。  ハクセキレイは春になると姿を消すらしい。求愛や子育てなどの生理的なもの、あるいは気温も影響するという。それならばその日が来るまで、メルとたくさん遊んでほしい。せっかく仲良くなれそうなふたりに、種族をまたいだ友情を結んでほしい。  そうして、今日、二月十二日──。  いよいよ冬も大詰めを迎え、飯米の山は窓から五センチのところまで来た。  私が庭に出ると、コピアがいつもみたいに舞い降りてきて、足の周りでダンスを踊った。テトテト、テトテト、頼りない足取りで、私を見上げ、チチッと鳴く。  ついに来た、と思い、私はベランダの窓を大きく開けた。    おそらくきっと、メルが飛び掛かって襲うことはない。ふたりが障害なく会話できるよう、私はその場に座り、成り行きを見つめることにした。当然、メルが悪さをしようとしたら、すぐに止めると決めていた。
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