導火線は、冬にこそ走り。

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 メルの目が、大きく輝いて開いた。  彼女は恐る恐ると言った感じに、手を伸ばす。    コピアがチチッと鳴いた。メルは驚いて手を引っ込めた。  かくれんぼ上手のメルは案外臆病な性格だ。それでもまた怖々(おずおず)と、手を伸ばす。  そぅっとしたスローなモーションが、たちまち感動となって、ぶわっと一気に押し寄せてきた。  桃色の肉球が、コピアの頬に触れた。  コピアがテトテト、歩み寄る。    メルは大きく息を吸い、瞳に好奇心をたっぷり浮かべ、()(ふく)で庭に身を乗り出した。  コピアがテトテト、歩み寄る。  ふたりは互いに顔を近づけ──、キスとも呼べないような軽いキスをした。  私は思わずうれしくなって、茶化すように声をかけた。 「コピアってオスだったの? それとも、百合っ気があるの?」    すると答えたつもりか、メルが一回、ニャアと鳴いた。正解なのか間違っているのか分からないけれど、私は素直にお祝いしたい気分だった。    ニャア、チチッ、ニャア、チチッ、と異なる言語がしばらく交わされ、ふたりはとても満たされているように、触れ合うことを遠慮しなかった。    やがて、チョンと跳ね、部屋に上がり込んできたコピアは、メルのベッドに居場所を作り、時間にして三十分ぐらい、そこで愛らしく遊んでいた。
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