導火線は、冬にこそ走り。

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 私は微笑み、夕暮れ近づく空を見た。まだ暖かい陽射しが射しているとは言え、さすがにそろそろ寒くなってきた。せめてコピアが逃げられるぐらい窓を開けておくとしても、少しぐらいは閉めてもいいかな、と思った。    視線を下げると、猫用ベッドで、抱き合うようにして眠っているふたり──。    まるで事後のように、安らいだ寝顔で眠っているふたり──。  私は、考えてみた。  外で暮らしているコピアは全然寒くないのだろう。メルは普段から居心地のよい場所でしか眠らない。と言うことは、ここの、この温度が、今は居心地よいと言っているようなものだ。  寒いのは私。じゃあ私は被害者なの? いや、ただ寒いだけ。風邪をひいたとしても、単に自分の免疫力が弱かっただけ。飛び出してきた猫を()ねたときみたいに、被害者ぶるのは信念に反する。つまり、窓を開けておくのが私の流儀。寒いのは、冬だから。それ、当たり前のことだから。  とりあえず、コートを着て手袋でもしよう。そう思い、立ち上がった。すると、またまた彼からメッセージが届いた。 《爆発が始まったみたいだ。駅前で燃えてるので、よろしくお願いします》  プッと吹き出し、返事を送る。もちろん、気持ちをありったけ込めて。 《大丈夫だよ。私は鎮火の方法を知ってるから。猫と小鳥が教えてくれた方法なので、あとは会ってから実行すればいいと思うよ。二人で燃えれば怖くない!》  そのうち、コピアはむくっと起き出し、ねぐらに帰っていくだろう。  メルはまた会えると信じて、明日も窓辺に張り付くだろう。  火がついた導火線は、時に痛みを伴い、焦げながら目的に向かって進む。導火線とは、対象があってこそ初めて作られる代物だ。痛みだって、(にが)みだって、余さずすべて受け入れて走るしかない宿命だ。  常に対象が間近にあるとは限らない。寂しいときに、それを拭ってもらえない日も必ず訪れる。でも、延々と伸びた導火線は、ところどころで小さく爆発しながら、炎の温度を上げていく。
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