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「いたた……」
頭を擦りながら、目を開ける私。
すると、そこはーー夏草生い茂る美しい庭園だった。
「えっ?!どこよ、ここ!一体どうなってるの?!だって、私はさっきまでーー」
「ここはツァールスコエ・セロー。あんたが可哀想だと言ったロマノフ一家が最期の夏を過ごした場所ニャ」
私の疑問に答える様に放たれた、聞き覚えのある声。
私が弾かれた様に声のした方を振り向くと、そこには先ほど……私が意識を失う寸前に見た2匹の猫がいた。
「僕の名前はズブロフカ」
太陽の様に美しい、オレンジ色の毛並みをした猫が小さく頭を下げる。
「アタシの名前は、コーチカ、ニャ」
次いで、大きく毛むくじゃらな猫がひょこっと頭を下げた。
(あ、この声!)
私はコーチカのその声に聞き覚えがあった。
冬宮殿で、ロマノフ一家に対して可哀想だと言った私に、「それは違う」と返した声だ。
(間違いない!)
そう確信を込めてコーチカを見つめる私。
すると、ほんの少しだけ申し訳無さそうな顔をしながら、コーチカが口を開いた。
「手荒な真似をして悪いねぇ、お嬢ちゃん」
(お、お嬢ちゃん?!)
目の前の猫(幾ら大きいとは言え猫は猫だ)、にお嬢ちゃん呼ばわりされたことにショックを受ける私。
けれど、コーチカと名乗った猫はそんな私の事等全く気にする様子は無く、話を続けていく。
「アタシはね、我慢ならなかったのさぁ。あんたが、ロマノフ一家を……アタシ達の大切な家族を『可哀想』と言ったことが」
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