第1章  遭遇

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第1章  遭遇

わたしはお気に入りのアーバンレッドのバウンサーを優雅に揺らしながら、そのときを待っていた。 わたしも今日で2歳か… またひとつ大人に近づいたな そう、今日はわたしの誕生日なのだ。   でも、おそらくケーキはもうでないだろう。 先月のクリスマス、ホールケーキの大きさに興奮するあまり、わたしは思わず生クリームに指を突っ込んでしまったのだ。 あれはマズかったな。 まあいいさ、まだお楽しみはある。 実はわたしは、誕生日プレゼントが何であるかを知っているのだ。  それはペットだ。 いや、盗み聞きしたわけではない。 少し前、ママとパパが話しているのをたまたま聞いてしまったのだ。 『たんじょうび』というキーワードに思わず聞き耳を立てたのだ。 「…で貰えることになったんだよ。白い毛並みでとてもかわいいこなんだよ」 とパパが言った。 あの口振り、きっと『わんわん』に違いない。 期待に思わず頬も弛む。 「あら今日はご機嫌ね」 おっと、顔にでてしまったか。 ママがキッチンから出てきてテーブルに料理を並べる。 やはりデザートはカッププリンか。 「あっ、パパが帰ってきた」 玄関とびらの開く音にママが反応した。 ドタドタと廊下を走る音、そして現れる本体。 「はーちゃん、お誕生日、おっめでとぉー」 うれしそうに大声を張りあげるパパ。 わたしはバウンサーから立ち上がり,そちらへと向かう。 目的は、当然彼ではなくその手に握られた丸い動物用キャリーの方だ。 「さぁ、サップラァァァーイズ プレゼェェェント」 巻き舌風の彼の演出も、今日は多めにみよう。 やはり『わんわん』か? 待てよ、この大きさなら『にゃーにゃー』かもしれない。 まあどちらでもいい。ワクワクが止まらないとはこのことだ。 さあ早くその姿をみせておくれ。 「さあ新しい家族ですぞ」 もったいつけてキャリーの蓋を開けると、パパはそいつを抱え上げ私の前へと置いた。 なにい? これは… そこに現れたのは、ドッチボールくらいの白くふわふわの丸い動物。まるで綿菓子のようだ。 「わー可愛い!マシュマロみたい」 ママが声をあげた。 その深い毛の奥からは 、赤い小さなビーズのような目がのぞき、わたしを値踏みするかのように見ている。 それで、あんたは… なにもの? わたしは、状況を整理しようとつとめた。 「あれ?硬直してるぞ」 「見つめあってるのよ」 能天気な外野からの声。 「ねえ、ウサギって言ってなかったっけ?」 「ウサギだよ、アンゴラウサギ。イングリッシュアンゴラって種類」 ふたりの会話は、まるで遠くの出来事のように耳の端をすり抜けていった。 初めてのペット、それは毛玉のおばけだった。
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