泥棒猫

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若紫はこの娘に文を託した後、首を括ったそうだ。 ときわ屋の主人はカンカンに成って、遺体を投込寺(なげこみでら)に打ち遣った。 何せ若紫を身請けしようとしたのは大店(おおだな)の若旦那で、余程の値嵩(ねがさ)だったらしく其奴(そいつ)が全部おじゃんになッちまったんだ、癇癪玉が破裂したッて無理も無ェ。 顛末を聞いた旦那はゆらりと立ち上がッて、また絵を描き始めた。 まるで何かに取り憑かれたみたいに一心不乱に、描いて描いて……  幾日も幾日も其奴(そいつ)が続いて、此のまま死ンじまうかと思った頃、旦那は一枚の絵を描き上げた。 其処には……若紫がまるで生きているかの様に描き出されていた。 そしてそれは()ぐ隣に掛けられた旦那の姿絵と対に成るように出来ていて、並べると二人が見詰め合って居るように見える。 まるで絵の中で二人が添い遂げたような……そんな絵だ。
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