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「え、何」
「変な音するから」
「確かにするけど」
「なんだろう」
「なんだろうね」歩く速度を落としたオコが言う。「怖いの?」
「怖くないのか」
「怖くはないかな。変だとは思うけど」
程なくして建物が見えてきた。八角形の屋根のついた円柱状の、2階建ての施設。オコとナツのいる道路を挟んで反対側には駐車場と思しき広場とぼろぼろの建物がある。とりあえず、まだ人の気配のありそうな八角形の屋根の建物の方を見てみることにした。山に隣接するこの建物はすぐそばに山の遊歩道へ続く階段がある。そこを行く者たちを導くかのように、階段の近くには石でできた奇妙なオブジェが鎮座していた。吊り上がった大きな黒い目に、開けた小さな口。ぼんやりとした表情に見えるが、それもまた不気味だ。ナツがリュックを掴む手にも力が入る。
「そろそろ放して欲しいんだけど」オコが言うがナツは首を横に振った。
「こんな所に人がいるのか」
「確かに、階段上ってからは車すら見ないね」
オコの住んでいる紙島は1キロ平方メートルにも満たない人工島で、そこに5000人が暮らしている。人口密度がこことはまるで違うのだ。ナツの住まいがある本土の街も大企業長南グループの息がかかっているためか、紙島ほどではないにしても企業に関わる多くの人々がひしめき合っている。こんなにがらんとした風景はあまり見ない。
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