緑のない島 1

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緑のない島 1

 誰にも言ったことはないが、地球は空気が青い星だと考えたことがある。よく晴れた日に船から眺めた紙島(ししま)が青く霞んでいるように見えたからだ。  ナツは灰色の海の上を滑る小さな船に乗っていた。行き先は本土から20キロほど離れた人工島。そこでゴミ収集の仕事をする。ナツはデッキの手摺に寄りかかりやや吊り上がった三白眼を細めながら海の水面を眺めていた。今日の空気は灰色だ。風から水が滴るのではないかというくらい湿っていて不快である。顔を上げると曇り空を背にしてもくっきりと浮かび上がるような濃い灰色の島が見えた。紙島だ。  紙島は面積が1平方キロメートルにも満たない小さな島だ。元々は海面から頭を出しているただの岩礁だったが、周囲を囲むように埋め立て地ができ現在の姿になった。岩礁以外はほとんどが人工物で草木も生えない。緑のない島と言われている。人口は5000人ほど。住人の大半が岩礁から資源を掘る作業員とその家族である。島の持ち主は長南グループの子会社オピドス株式会社。島に常駐している役員は紙島で1番高いビルの最上階に住んでいるとのことだ。  桟橋を下り島に上陸すると充電スタンドに小型の電動バイクが止まっている。バイクの後方には車輪付きの荷台が取り付けられていた。ナツは免許は取得していない。取得するための金がない。乗り方は知っているのでこれを使って島内の集積所を回る。バイクに跨り電源を入れ居住区に向かった。
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