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不思議な床下収納
クローバーの葉は、生えた根っこで器用に店内を逃げ回る。色々な瓶の上や、何が入っているのかわからない箱の陰──とにかくちょこまかと逃げ回って、アルバート達をイライラさせた。
「待て! この!」
「早く捕まえなきゃ!」
アリスも加勢して、随分かかって……どうにか部屋の隅まで追い詰めることができた。
「さ、戻ってきなさい」
クローバーの葉が、首を横に振るような仕草をしたように……アルバートには見えた。
これだけ追い回されて、今更戻って来いと言われてもそんな気にはなれないだろう。アルバートは、なんだか少し、クローバーの葉が可哀想になってきた。
しかし──それが狙いだったのかもしれない。
クローバーの葉はアルバートのわきを走り抜け、カウンター奥に見える床下収納の扉にできた小さな穴へ跳び込んでいった。
「大変!」
アリスに指示され、アルバートが床下収納の扉を開けると、勢いよく突き落とされた。
ゴロゴロと穴のようなところを転がって飛び出た先は──花畑だった。一面が青いアネモネでいっぱいだ。
出ようとしても出られない店に、花畑がある床下収納──。
もう何も驚かないぞ──アルバートは思った。
「どいてどいてどいて!」
その声とほぼ同時に、アルバートの背中に大きな衝撃が走った。……アリスの踵が思い切り背中に食い込んだのである。
「びっくりしたよ……アリス」
まさか突き落とされたあげく、蹴られるなんて(その上こんなにも早く前言撤回することになるなんて)。
「どいてって言った」
悪びれる様子もなく、アリスはキョロキョロと辺りを見回した。
「クローバーは?」
「あ!」
花畑に気を取られて忘れていた。
アルバートも辺りを見回すと──いた。目の前のアネモネの茎の後ろだ。隠れているつもりなんだろうが、丸見えだ。
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