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 床下収納から店に帰ってきた頃には、アリスもアルバートも汚れだらけだった。  アルバートはアリスに、シャワーでも浴びてきたらどうかと提案したが、アリスは、仕事だから──と、すぐにクローバーの入った瓶を取り出した。  それを見て、アルバートの手のひらの上にいたクローバーの葉が震え出した。  今から自分が薬にされるのがわかって、怯えているようだった。  アルバートは言った。 「やっぱり、薬はいらないや」 「なんですって?」  アリスが少し開けた瓶の蓋を慌てて閉じた。  アルバートは蓋をゆっくり開けて、手のひらの上のクローバーの葉を、その中にそっと落とした。瓶の中に戻ったクローバーの葉は嬉しそうに、瓶の中で飛び跳ねた。 「せっかく戻れたのに、可哀想だろ」 「でも、あんなに苦労したのに」  アリスは納得がいかない様子だった。 「それに、薬を買わなかったら店からは出られないのよ?」  アルバートは苦笑いした。 「薬ならもう、今回のがいい薬になったよ。楽して夢を叶えるのもいいけど……努力するのも悪くない」  アルバートは、お代のクッキーをカウンターの上に置き──店のドアを開けた。
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