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プロローグ
「毎度ありがとうございました」
軽く手を振って茶髪の男の背を見送り、ドアを押す。
チリンチリンと、ドアの上に備え付けた銀色の小さなベルが鳴る。
「ねえ、私よ」
そう言いながら見上げると──ベルにみるみるうちに、口元に立派な白髭を生やした老人の顔が浮かび上がった。
「おやおや! これは失礼!」
鈴を振るよう……ならぬ、ベルを振ったような声でチリンチリンとベルが笑う。
やれやれと思いつつ、カウンターに腰掛けて、食べかけのクッキーに齧り付いた。
そして、ぐるりと室内を見渡した。
この部屋には色々なものがある。……乾燥したヒキガエルや、水がなくても枯れない薔薇。名もない葉っぱに、串に刺さったトカゲとイモリ……その他諸々が瓶に入れられ、壁中に所狭しと積まれている。
「さて。今日はあと何人お客が来るかしら」
クッキーを飲み込み、ベルに問いかけたが、ベルは既に「ただのベル」に戻っていた。
チリンチリン──と音がして、ドアが開く。
「いらっしゃいませ。薬屋アリスへ、ようこそ」
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