君にひかれて

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君にひかれて

トラックに轢かれて僕がみた最期の空はコンクリートブロックの灰色で塞がれていた。魂が気紛れにかけた掃除機に吸われるみたいに呆気なく無くなった。突然の死だった。次に目に映ったのは真っ白な世界だった。普通なら死後の世界は無辺の暗闇なんじゃないのか。 「虚無は闇にあるとは限らないじゃないか」 死神は言った。彼はいかにもないでたちに対して身長も低いし顔も幼かったが、とにかく死神だと直感でわかった。 「自己紹介といきたいが時間がない。とにかく君は死んだ。そのことは自覚しているかい?」 「はい」 僕は言った。 「この世界はさしずめ賽の河原と言ったところでしょうか」 「そうだね。此度は誠にご愁傷様でした」 死神は事務的に言ってお辞儀した。僕も頭を下げた。死神は続けた。まるで僕にプレゼンをするかのように。 「あの世に行く為に未練は極力捨てなければならない。だが人間、全ての未練は捨てきれない。そこで我々は死者に現世から何か一つだけ持っていくことを許可する法律を定めたんだ。期限は迎えの使者が来るまでだね」 死神がそう言い終わる前に僕は叫んでいた。 「幼馴染を僕に下さい」 僕は死神に幼馴染の魂を要求していた。僕の未練は、告白出来ぬまま離ればなれになった幼馴染に宿っていたのだ。僕は言ってからひどく後悔した。だが、止めらない。たとえ地獄で引かれ者になっても構わない。僕は人の倫理を捨て去り彼女の魂を要求した。それくらい僕は彼女に惹かれていた。 「わかったよ、まぁ君の願いはすぐ叶う」 死神が不気味にそう言った時、雪のように白い翼を生やした女の子がひらひらと蝶のように舞い降りた。彼女の翼は凍てついた輝きを放っていた。僕はその迎えの使者をみて愕然とした。彼女は吸い込まれるような微笑をふくみながら言う。 「随分待ってたよ。死神さん、私の幼馴染をつれてきてほしいって願い、叶えてくれたんだね」 そうだ、この笑顔を見せてくれる君に僕は惹かれたんだ。
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