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13歳の夏
「今日は、神社でお祭りがあるけどハメを外しすぎないように」
担任の田中先生がみんなに言う。
でも、ついさっき終業式を終え夏休みまで後一歩の自分達がそんな話を真面目に聞いている訳ない。それは、美鈴も同じでさっき田中先生が配った『夏休みの過ごし方』と書かれた紙の裏に右隣に座るぐっちこと山口亜由美から回ってきた絵しりとりの絵を描きながら話を聞いていた。
ぐっちも美鈴も絵心がないから描かれているのは犬らしき生き物や鉛筆らしき棒で下に「いぬ」とか「えんぴつ」と書かないと何なのか分からない状態になっていた。参加している友達のなかで唯一絵が上手いなーちゃんこと小林菜々子の描いたイラストだけが下に文字を書かなくてもすぐに分かるイラストになっていた。
そりゃそうだろう、と美鈴は思う。なーちゃんは美術部だしお母さんも中学校の美術の先生をしているのだと聞いたことがある。そんななーちゃんに陸上部のぐっちと帰宅部の美鈴が勝てる訳ない。
美鈴は細い魚のイラストを描いて下に「メダカ」と文字を書いて前の席に座るなーちゃんに渡した。
なーちゃんが絵しりとりを描いているのをぼーっと眺めていると後ろの席に座る野上翼に背中をシャーペンでコツコツと突かれた。
美鈴が振り向くと、翼は退屈そうな表情を浮かべていた。彼のいかにもダルそうな顔を見ているとこっちもダラダラしたくなってくる。
「女子さっきから何してんの?」
「絵しりとり。翼もやる?」
「俺はいい。美鈴達だけでやれよ」
「えー楽しいのにー」
美鈴がそう言った途端、コツンと頭に教科書が降ってきた。
「痛っ」
美鈴が目線をあげると、いつの間にか美鈴の席に来た田中先生が美鈴を見下ろしていた。
「青野ー、今俺がなんで言ったか聞いてたか?」
「夏祭り?」
「野上」
美鈴の返事に対し田中先生は表情ひとつ変えずに翼にも同じ質問をする。
「宿題」
田中先生は翼の返事に小さくため息をつくと、美鈴と翼を交互に見ながら言った。
「お前ら2人は後で職員室に来い」
「えー、お腹すいたー」
「性格悪っ」
美鈴と翼の文句を田中先生はスルーし、教卓に戻った。
「じゃあ、後の人は解散。青野と野上は職員室に来るように」
日直のニッシーこと西江翔平が号令をかける。
「起立、礼」
「ありがとうございました」
その言葉と共にクラスメイト達が一斉に出口へと向かって行く。職員室に呼ばれた美鈴と翼とこれから日誌を書く日直のニッシー以外には夏休みがきたのだ。
さっきまで美鈴と絵しりとりをしていたぐっちは夕方まで陸上部の活動があるらしくお弁当を持って他のクラスの陸上部の友達の元へと行ってしまったしなーちゃんは美術の坂上先生に呼ばれて教室を出て行ってしまった。
あっという間に人がいなくなった教室でニッシーが面倒臭そうな表情を浮かべたまま日誌を書いていた。
「なぁ今日の感想何が良いと思う?」
ニッシーが美鈴達に聞く。
「夏休みが楽しみです」
小学生の様な感想をあげた美鈴に続いて翼も答える。
「夏休みもサッカー部での活動を頑張りたい」
ニッシーは「馬鹿コンビのお前らに聞いた俺が馬鹿だったよ」と怒り少し大きな字で日誌を書き出した。
「ニッシー、そんな怒んないでよ」
慌てて言う美鈴を見てニッシーはニッと意地悪な笑みを浮かべた。
「帰りのホームルームで青野さんと野上君が話を聞いていなくて先生に怒られていましたって書こうかな」
「ちょっとニッシー!」
ニッシーに向かって走って行く美鈴を見てニッシーは慌てて席を立った。
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