13歳の夏

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 美鈴がアパートの扉を開けると、お母さんからの置き手紙があった。 『美鈴へ この前頼まれた浴衣は紙袋に入れて寝室に置いてます。 夜は、お祭りで食べてきて下さい。お母さんも今日外食するので。 洗濯物とお風呂よろしく。 母』  近所のクリーニング屋さん広告の裏に書かれたそれを美鈴はゴミ箱にくしゃくしゃに丸めて捨てると、着ていたセーラー服を洗濯機に入れると、シャツにデニムのショートパンツに着替えた。母子家庭ということもあり、美鈴の私服は親戚のお古かファストファッションを売っているお店のセール品の中から選んだ売れ残りの服だけだった。  ぐっちはあまりオシャレとかは気にしないタイプでスポーツブランドのTシャツやジャージをきていることが多いけど、なーちゃんは中学生向けのファッション誌を毎月読んでるだけあって私服もかなりオシャレだった。1枚のショートパンツと1枚のデニムスカートとセール品や親戚のお下がりのTシャツだけで夏を過ごしている美鈴となーちゃんは住んでいる世界が違う。  そんな美鈴に対して最近お母さんは、どこで手に入れたのか中学生の美鈴でも知っている有名ブランドのバッグを持って出掛けることが増えた気がする。服もお母さんだけ真新しい少し高そうな服を着ている日が増えた。  なんとなく男ができたのだろうと察しはつくが、それはお母さんにはあえて言わなかった。言っても多分「美鈴には関係ないでしょ」で片付けられるに決まってる。  美鈴が寝室に行くと、紙袋の中に入った水色の生地に大きな向日葵がプリントされた浴衣を見る。数年前にお母さんの親戚の子どもが来ていたという浴衣。大きな向日葵なんて子供っぽいなと思う。本当は、前にテレビで見た紺色に朝顔柄とか黒に紫色の花柄の浴衣みたいなもっと華やかで大人っぽくてオシャレな浴衣が着たかった。 「なんでうちにはこんな浴衣しかないんだろ」  大きな向日葵柄をもう一度見て美鈴はため息をついた。
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